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南出健一の経営放談18
『身勝手なジュニアが蔓延 この国の行く末は?』
(2006年5月号)
Q.
先月号で私たち団塊世代が取り上げられましたが、 6 年前、勤務先のリストラを契機に同僚 8 人と共同出資で製品設計の個人向け請負業を始めました。 設立から 3 年というもの、現場に泊り込みながら懸命に働いたものです。
おかげさまで在籍していた電機メーカーからの受注も安定し、一昨年から利益を上げられるようになりました。 しかし、事務所と 3 次元 CAD (コンピュータによる設計)導入リースの負担額をめぐり仲間が反目し合い、数人が退社宣言する騒ぎまで起こしたのです。
強みのはずの共同事業が業績向上した途端、災いを招く結果になってしまいました。 世間知らずでしかも身勝手人間の集まりでは先々思いやられます。 腹にすえかねるのは剰余金まで配当しろという愚か者まで出てきたことです。 出資金を買い取り彼らとは決別するしかないと考えています。
A.
あなたたちリストラ仲間は互いの負った傷を労わり励まし合ってきたはずです。 多くの団塊世代は組織の中で従順と働くことが習い性だっただけに、一時とはいえ身の置き所もなく不安な日々を送られたことでしょう。
それでも人間とは身勝手にできた動物です。 お互い必要な存在と認め合いながらいつの間にか「獅子身中の虫」になってしまうのです。 なぜか仲間同士でイーブンな立場のビジネスを起こしても長続きしません。 もっとも、ビジネスばかりか政治の世界でも「友情」など一度利害関係が絡めば、いとも簡単に霧散してしまうものです。 それが「お金がすべて」と言ってはばからない「団塊ジュニア」が大手を振って罷り通る時代であれば尚更のことです。
さて、近頃ようやく創業率も上がってきたようですが、半面、共同経営ゆえのイザコザから倒産の憂き目に遭う企業も少なからずあるのをご存知ですか。 K 氏は父親が経営するアパレルメーカーにいましたが、「経営者修行」に耐えかねて、数年ほどで退社してしまいました。 ほどなく彼は学生時代のサークル仲間 5 人と念願のネットワーク再販の G 社を起こします。 彼らの共通項といえば 30 代半ばで独り身。 しかも、親の「衣食住保証付」という優雅な生活でした。
でも、親の七光りか、生まれ育ちの良さからか「政財界」の人脈には事欠かず、 G 社に出資した高名な財界人がいたほどです。 彼らは何事も「形」から入るタイプで都心の一等地に事務所を構えて見上げるような看板を掲げます。 当時「径しげな企業がよくも 3 億円の資本金を集めたものだ」ともっばらの評判でした。
2004 年、創業 2 年をへても年間売り上げがわずか 1 億円にも満たないものでした。 この間、出資金は使途不明な出費と法外なテナント料に変り果てていたといいます。 K 氏は運転資金に事欠きはじめ、あれだけ忌み嫌っていた父親の「印鑑」にすがる羽目になります。
父親も然るもので「仲間の親の連帯保証」が条件でした。 共同経営者は一斉に親元の説得に走りますが、ことごとく「拒否」されます。 それでも自らのリスクで資金調達しようとする者は 1 人としていませんでした。 「バカな子供ほど可愛い」ということでしょうか。 父親は倅がホトホト困り果てているのを見るに忍びなかったようです。 渋々5000 万円の制度融資枠を作ってやることにします。 さすがの K 氏もビジネスの難しさを身に沁みて実感したようでしたが、納得できなかったのは共同責任であるはずが「なぜ俺だけがリスクを負うのか」ということでした。
不信感を募らせた K 氏は仲間とたもとを分かつ裏工作に走りますが、彼らもまた、時を待つまでもなく G 社の迫り来る破局に素早く反応しました。
目端の利く連中はサッサと売掛金の回収に走り、そのまま「ドロン」を決め込んでしまったのです。
もはや横領罪で告訴しようにも手遅れ。 債権者は寄ってたかって K 氏のわずかに残った「資金」を取り上げました。 G 社は人様から集めた金を湯水のように使い果しただけで終わったのです。
「額に汗して働くことの大切さ」を教えよ
「共同出資・経営」で「個人請負」とはいったんこじれると収拾し難くなります。 あなたも K 氏も、「共同」とはリスク分散だと勘違いして、「寄らば大樹」の延長線上での起業ではなかったかと思います。 商売とは共同であろうと「一つ間違えたら素っ裸」にされる運命にあり、どこにも逃げ場はないのです。 とはいえ、団塊世代がせっかく「自らの道」を切り開いたばかりなのに分解寸前とは返す返す残念です。 何としても仲間との再編を図って事業を全うしてください。
一言。 K 氏とその仲間は、あなたたちの「ジュニア」です。 なぜ、彼らに額に汗して働くことの大切さを教えてこなかったのですか。 「時代の変革者」と持ち上げられたあのジュニアも手練手管で金を集めることに精を出しただけでした。 自分のことしか考えない輩を蔓延させていてはこの国の行く末はありませんぞ!
それぐらいの「気概」を持ってください。