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南出健一の経営放談16
『なぜこんなにも多い? 見せかけの経営改革』

(2006年3月号)

Q.
 業務そのものを変えなければ IT (情報技術)投資効果は出ないといわれます。 私は大手通信企業の子会社の管理職です。 当社も 2 年前、組織横断的な BPR (ビジネス・プ口セス・リエンジニアリング)プ口ジェクトチームを編成し「あるべき姿」の構築を目指してきました。
 1 年目は目を輝かせたメンバーと課題の洗い出しや分析に徹夜の議論を重ねてきました。 彼らのフリーな立場の意見や提案から多<の可能性が生まれて<るものと期待したものです。
 しかし、翌年の人事異動で親企業から来た上司の「人のアラ探しをして面白いだろう」という一言にはがく然としました。 以降、改革への意欲も失せてしまいメンバーも 1 人消え 2 人消えている状態です。 子会社に籍を置く者の悲哀と言ってしまえばそれまでですが、親企業には依然として役人顔負けの幹部がいるとは情けない限りです。

A.
 いまだにこんな上役もいるんですね。 あなたの会社ばかりか自分に火の粉が降り掛かろうものなら本性剥き出しに抵抗する輩は後を絶ちません。 この連中にいくら「正論」を説いても聞く耳は持ち合わせていないでしょう。
 低迷する業績から抜け出したい経営者が右も左も分らない若手社員を糾合し「改革運動」の先頭に立たせ「悪者探し」をやらせた事がありました。 勢いづいた「紅衛兵もどき」は幹部連中を次々槍玉に上げたそうです。
 おのれの身に迫った危機を察知した幹部は見せ掛けだけ恭順の意を示し、あたかも改革者の装いで振る舞ったのです。 若者たちは平身低頭した相手の本質を見抜く力などありません。 彼らは勝ち誇った勢いで「挙国一致」スローガンを掲げただけで何の成果も出せずに終ったのです。
 バブル崩壊以降、これに類する「えせ改革運動」が枚挙の暇がないほどあります。 今ごろになって着物の裾の縫い目が解けるように至る所で「ぼろ」を出した大企業もあるほどです。
 今回は、エリート幹部が高 々 と「あるべき姿」を掲げて子会社に乗り込んだものの、結局二進も三進もいかなくなったお粗末な話を紹介します。

40 歳社長が「再構築」に挑むが …

 J 社は子会社とはいえ社員 1000 人を抱える情報システム企業ですが、その「再構築」を担った 40 歳の Y 氏が社長に着任して 1 年が過ぎました。 彼は出向に当たり上司から「径営の勉強をしてこい」と言われていたのです。
 J 社は IT べンダーとはいえ親企業カ昨るスペック通りの「プログラム」をこなす力仕事だけでした。ですから自社の営業活動も関連企業の範囲であり、リスクを抱えるような仕事は皆無に近かったといえます。
 もともと何事も「おんぶに抱っこ」で済ませてきた企業に粋がって乗り込んできた Y 氏のことです。彼は居並ぶ幹部を前に居丈高に「BPR で」 J 社の体質を変え 3 年後に上場する」と宣言しました。 幹部の 1 人から「上場して何のメリットあるのか」と聞き返された Y 氏は「あなたはそんなことも知らないのか!それは優れた企業の証なのだ」と憤然として答えたのです。
 J 社の社内情報システムはといえばまさに「紺屋の白袴」、とても経営活動に云々といえる代物ではありません。 半面、彼にとっては「B PR 」を進めるうえで「願ってもない教材」だったようで 1 人満面の笑みを浮かべていたとか。
 社員の品定めもそこそこに各部門から若手を集め「改革チーム」を編成することになります。 社長直属のチームがスタートして 6 ヵ月、 J 氏はもどかしさにイライラしてきました。 打てどたたけど響かない若手社員にいくら危機感を煽ってもポカーンと口を開けているだけでした。
 「千手詰り」とでもいいましょうか、イラつく社長はよせばいいのに棚上げしたはずの幹部と若手を入れ替えるチーム再編をしてしまったのです。 「世渡り上手」の幹部相手ですから、今度は彼が手玉にされる番です。
 彼らは「ハイ、ハィ」の二つ返事で表向きの「ノルマ」を無難にこなしはしたものの、問題の核心に触れようとはしませんでした。 そして数人の幹部が「当社は子会社、とってつけたようなことをするとコストが上がるだけ」と言い放たれては、理想家の Y 氏も「上場」どころか「空中分解」以外に何の術も持ち合わせなかったのです。

毒にも薬にもならないサラリーマン

 どこでも改革運動の先陣を仰せつかった人が、あ然とするのは常日頃、偉そうなことを言う人ほど「各論に反対」することです。 あなたの上司はとても立身出世を目指す「野心家」だとは思えません。 恐らく、あと数年で定年を迎える「毒にも薬にもならない」お人よしのサラリーマンでしょう。 彼の深層心理とは「何事も静かに、静かに」の一言のはずです。 そんな手合いを相手に意気消沈してはばかばかしい限りです。
 「初志貫徹」には、あなた自身が「身を挺する勢い」を持続できるかどうかにかかっています。

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