オーパシステムエンジニアリング
会社情報

 

一覧に戻る

南出健一の経営放談10
『足らないのは人材 補うのが経営者の責務』

(2005年9月号)

Q.
 先代の役員を引き継いで代表取締役となり 1 年になります。 当社は叔父が産業機械商社を経営していましたが創立 40 周年を機に社長交代しました。
 私は大手商社勤務で 10 年近く米国に駐在していました。 その間、何度となく叔父からの強引な説得を受け、遂に社長を引き受けた経緯があります。 しかし会社の実態を知るにつけ、聞くと見るとでは雲泥の差のあることにあ然としました。 時々、貧乏くじを引いたのではと悔やまれることさえあります。 特に役員連中の能力の低さにはあきれ返ってしまうこともしばしばです。
 会長になった叔父に「にんな幹部を相手によ<会社が存続してきたものだ」と皮肉を言ってもピンとこないのか、ただニヤニヤ笑っているだけです。 先日の会議でも企業戦略のあり方を教育したところ、居眠りをする輩が出るに及び遂に堪忍袋の緒が切れて 5 人の役員に辞表を出せと申し渡してしまいました。 中小企業にいる人材とはこんな低レべルなのでしようか。

A.
 あなたは相当な自信家ですな。 「中小企業の人材は低レべル」とは聞き捨てならない一言です。 確かに見様見真似で仕事を[体得」した叩き上げの幹部もいるかもしれません。 大企業のように「自社の枠組みにはめ込む訓練」が施されていないし、基礎的な「読み書きそろばん」に難点のある人材もいるでしょう。 今時、そんなことがあるのかと思われるかもしれませんが、まだまだ経験と勘だけを頼りにしている人々もいるのです。
 いいか悪いか別にして彼らはおしなべて「おやじ」に従順であり企業へのロイヤリティーは極めて高いといえます。意地悪な人に言わせれば「ほかに行き先がないからしがみ付いているだけ」かもしれませんが … 。

元エリートの嘆き節

 さて、このところ身内の中小企業を継いだ大企業出身の「元エリートサラリーマン」の「嘆き節」をよく耳にします。
 彼らは口々に「当社はダメ人材の掃き溜め」と大ぼやきをします。 お伺いします。 本当に中小企業の人材はダメでしょうか、これからご紹介する事例をとくとお読みください。
 F 氏は何事もなければキャリア官僚としての将来が約束されたエリートでした。 ところが地元出身政治家の令嬢との破談後、ひょんな出会いで知り合った町工場の一人娘と一緒になったおかげで彼の人生波動は大きく変わることになります。
 欧州の在外大使館に勤務していた 1993 年、義父の急逝により帰国するやたちまち「町工場」の跡継ぎにされてしまったのです。 上司から「お前は国家を背負って立つ身だ」と説得されても F 氏の意志は動きませんでした。
 S 社は業界で知れ渡っていた精密圧造金型工場でしたが、義父は腕利きの職人 30 人の技能集団を指揮する「親方」であり「師匠」だったといいます。 そんななかに「元キャリア官僚」が飛び込んできたのですから驚いたのは職人たち。 F 氏は朝礼で「今日から S 社の人間になりました。 右も左も分かりません」と頭を下げたのが大受けし現場責任者の「社長、分からない事があれば何でも教えてやるよ」の野次に工場が爆笑の渦に包まれました。
 作業服に身を包んだ彼の最初の仕事は材料運搬と工場清掃でしたが、生まれて初めて見る工作機械から削り出される「切粉」と「切削油」の煙には圧倒されるばかり。 「見るもの聞くものすべてが新鮮。 工場に出勤するのが楽しい」といっで陣らない F 氏を職人たちは首を傾げて見守るだけでした。

左手の人差し指を切断

 社長になって 1 年、人手不足を補いたいと作業を手伝っていた時、誤って左人差指を切断してしまいました。
 失神した彼は職人たちに抱えられて病院に担ぎ込まれ 10 日間の眠れぬ日々を過ごしたのです。 2004 年、 S 社は私募債で 10 億円の資金を集めタイのパタヤ工業団地に進出しました。 彼は竣工式で左手を掲げ「私も指を落としたお陰で一人前として認めてもらい、今日の日を迎えることができました」とあいさつしました。
 F 氏は官僚としても立派な仕事を続けたことでしょう。 人間、住む世界が変われば今まで積み上げたモノはすべてご破算にする勇気を持たなければ次に進めません。 彼は「世間知らず、未熟者」としての謙虚な言動があったからこそ「仲間」として認められ職人やお客に尊敬されたのです。
 彼の生まれながらの素質を開花できたのは何事にも強い関心を示す「好奇心」と「他人の痛み」を知ろうとする「心」を併せ持っていたことでした。
 いまだに建前主義の官僚機構や大企業システムでは理屈が最優先していますが、それが習い性になっている限り人間社会の「不可解さ」は理解できません。「共鳴しあえる集団」とは「人間臭さの発露」と「本音のぶつけ合い」にあることを知らなければなりません。 いつまでも鎧兜に身を固め「見てくれだけ」を主張してもだれが本気で受け入れてくれるでしょうか。
 あなたは叔父上に「よくもこんな人材で … 」と文句を言った時、ニヤニヤ笑って何も答えなかったとのこと。 いまだその意味は分からないでしょう。 うん蓄ある笑いのなかには「理屈だけで何カ扮かるの?」と問うているのですよ…。
 中小企業に欠けているのは何をさて置いても人材です。 しかし、その足らざるを補っていくのが経営者の仕事です。 つまり、得意技を持っている人々を糾合し「合わせ技」に整える役割を担っているということです。 人材とはその状況ごとに対応し得る能力であり、 5 年先、 10 年先を見通すのは経営者のあなたです。
 「中小企業の人材が抵レべル」という前に自分の力が中小企業の経営者として使い物になるのかどうか吟味してださい。

オーパシステムエンジニアリング