さて、このところ身内の中小企業を継いだ大企業出身の「元エリートサラリーマン」の「嘆き節」をよく耳にします。
彼らは口々に「当社はダメ人材の掃き溜め」と大ぼやきをします。 お伺いします。 本当に中小企業の人材はダメでしょうか、これからご紹介する事例をとくとお読みください。
F 氏は何事もなければキャリア官僚としての将来が約束されたエリートでした。 ところが地元出身政治家の令嬢との破談後、ひょんな出会いで知り合った町工場の一人娘と一緒になったおかげで彼の人生波動は大きく変わることになります。
欧州の在外大使館に勤務していた 1993 年、義父の急逝により帰国するやたちまち「町工場」の跡継ぎにされてしまったのです。 上司から「お前は国家を背負って立つ身だ」と説得されても F 氏の意志は動きませんでした。
S 社は業界で知れ渡っていた精密圧造金型工場でしたが、義父は腕利きの職人 30 人の技能集団を指揮する「親方」であり「師匠」だったといいます。 そんななかに「元キャリア官僚」が飛び込んできたのですから驚いたのは職人たち。 F 氏は朝礼で「今日から S 社の人間になりました。 右も左も分かりません」と頭を下げたのが大受けし現場責任者の「社長、分からない事があれば何でも教えてやるよ」の野次に工場が爆笑の渦に包まれました。
作業服に身を包んだ彼の最初の仕事は材料運搬と工場清掃でしたが、生まれて初めて見る工作機械から削り出される「切粉」と「切削油」の煙には圧倒されるばかり。 「見るもの聞くものすべてが新鮮。 工場に出勤するのが楽しい」といっで陣らない F 氏を職人たちは首を傾げて見守るだけでした。