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南出健一の経営放談8
『今も昔も変わらない 兄弟は他人の始まり』

(2005年7月号)

Q.
 内輪の争い事が輝られるとは承知していますが、あまりの侮辱に怒リを抑え切れず恥を忍んでご相談します。
 兄と私は 25 年間、苦楽をともにしながら建物管理会社を経営してきました。 ビル改修費として受け取った約束手形が不渡りになったり、暴力団に脅迫されたりと、数え切れないほど苦労を重ねてきました。 その度ごとに矢面に立ち解決してきたのは番頭役の私であり、社長の兄を危険な立場に置いたことは一度もありません。
 ところが 3 年前に兄の長男が入社してから様子が急変し、ことごとく私のやることなすことに難癖をつけ邪魔者扱いしはじめました。 そのうえ、「お前の持っている株を今の資産評価で買い取ってやるから」とまで言われ愕然としたのです。
 明らかに兄は私を会社から追い出そうとしているのは確かです。 これが血を分けた弟であり共同経営者である人間に許されることでしようか。 私は名誉のためにも意地を賭けて抵抗するつもりです。

A.
 親子兄弟の「骨肉あい争う」さまは無責任な他人に言わせれば「浅ましい限りだ」と切り捨てられますが、追い立てられる側にとっては我慢ならない仕打ちです。
 お互い苦労の最中は「一枚岩」ですが、事業が順調になるといつの問にか「同床異夢」になりがちです。 貴社のように途中から代表者の息子が「ポスト社長」含みでスってくると「こと」は厄介になります。 まして優れた身内がいると息子が「獲って食われはしないか」ばかり気になり、揚げ句に猜疑心だけに凝り固まってきます。
 困るのは息子の能力如何よりも親の邪な「種の保存意識」が強く働き「取りこぼしのない権力譲渡」になることです。 かたや、経営者が身動き取れない個人保証や家屋敷を担保に取られている限り本能的に自分たちの「生存権」を守ろうとするのも当たり前かも知れません。
 本音のところ経営者個人が負い続けるリスクをだれも肩代わりできない限り「企業は公器」とは第三者の身勝手な論理ではと思いたくもなります。
 さて、そこであなたと同じ立場に置かれた有能な男が血を分けた兄との抗争で塗炭の苦しみを味わし挫折していった事例をお話しなければなりません。

「兄弟が同じ会社だと仲違いする」

 大手システムべンダーのシステムエンジニア( SE )だった K 氏は 40 歳の時、兄の経営する IT (情報技術)システム開発の P 社に取締役として招聴されました。
 彼らの両親は「況弟は他人の始まり、同じ会社の中で仲違いでもしたら収拾カ肘かない」と心配しても、兄弟は口をそろえて「親バカの取り越し苦労」と一蹴してしまいます。
 P 社は 300人のプログラマーを官公庁や大企業に出す「派遣業」。 社長は常日頃、自嘲的に「俺は口入れ手配師だ」と言って憚りませんでした。
 本社とは名ばかりでデスクにいるのは総務・経理担当者 3〜4 人でしたから、社長にとって「本物のシステム開発企業」が創業以来の祈願でした。 ですから、弟である K 氏を「企業再生の要」として迎え入れたわけです。
 彼も嘱望された前職を投げ打っての転進でしたから、その意気込みたるや大変なもので社員には「次期社長含み」の印象を与えるほどの勢いだったようです。 社長も K 氏が寝食を惜しんで働く姿を目の当たりにして「あいつは子供の頃から 1 つのことに熱中するとすごい!」と周囲に洩らしていたほどでした。
 K 氏不断の 5 年間は見事に結実し「社内開発型システムハウス」として独り立ちできるまでになりました。 いまや、彼は社員やお得意先からもその実力を評価され P 社の名実ともに「中興の祖」になっていたのです。
 とある日、彼は入社以来はじめて社長から飲み屋に誘われ、その席で「息子を当社に入れる。一人前に鍛えてくれ」と告げられます。 彼も赤ん坊の時から可愛がった「甥」でもあり、さして気にも留めませんでした。

兄の長男入社が転機に

 額面通り K 氏は「甘ちゃん」の甥にスパルタ教育を始めて 6 カ月目の会議の席で社長が顔面蒼白になって「当社にはフレッシュマンの芽を摘む輩がいる!」とわめき散らすではありませんか。 彼もはじめはだれのことを言っているのか混当も付きませんでしたが、やがて自分への当て擦りであることに気づきます。
 彼は全身の力が抜けるともに社長への怒りが込み上げ「兄貴、バカ息子がそんなに可愛いのか!」と言い放ったのです。
 以来、社長への抜き指しならない憎悪感だけが日増しに鬱積し仕事への情熱は萎んでいくばかりでした。K 氏は退任の際、社長から「血は水よりも濃い」と猫撫声で嚇かれた時、父親の「兄弟は他人の始まり」の一言が妙に思い出されてなりませんでした。
 血を分けた兄弟で事業を興したケースは数多くありますが、後継者問題が絡むとことごとく仲違いします。 兄弟抗争は家族同士のいがみ合いにまでエスカレートし、果ては「肉親の縁」を絶ってしてしまうことすらあるのです。
 大河ドラマ「義経」でも源頼朝の平氏追討に奥州平泉から呼応挙兵した弟義経は、京都で我がもの顔の振舞をした木曽義仲を成敗し、その勢いを駆ってーの谷や壇ノ浦で平氏一門を壊滅させます。 「戦術家」義経の評価は高まるばかりでした。 が、この時から源氏の「棟梁」頼朝は弟に強い情疑心を抱きはじめたといわれます。そして兄の無慈悲な「追討令」により弟は追われる身として再び奥州への逃避行の後、悲劇的な最後を迎えます。
 あなたは名誉と意地のために争っても残るのは空しさだけです。 「資本の論理」にはかなわないのだから「実を取る」ことに全力を傾けてください。
 いいじゃありませんか「立つ鳥あとを濁さず」で次の段取りをしましょうよ。

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