オーパシステムエンジニアリング
会社情報

 

一覧に戻る

南出健一の経営放談5
『共同経営ブームに待った、「弱さ補完し合う」は幻想』

(2005年4月号)

Q.
 「景気は回復基調」だそうですが、当社のような下請け企業では相変わらずの短納期と底なしの値下げ要求で何の実感も沸きません。
 私は自動車向けのコイルスプリング工場を経営してきましたが、何もかも親会社の言いなりの30年であり、今更ながら主体性の無さにうんざりしています。下請け企業の経営者は大なり小なり同じ悩みを抱え、ここから抜け出せないでもがいているはずです。私も異業種交流の仲間たちと何回も下請け稼業からどう脱却すべきか議論を重ねてきました。
 昨年、大手商社から環境機器の開発依頼が来たのがキッカケで異業種グループ5社による共同出資で資本金1000万円の会社を設立しました。当初、だれが債務保証するかで相当ギクシャクしましたが、今までのところ何とか収まるところに収まりそうな気配です。
 しかし、共同事業では手足を縛られ思い描いていたものとは大きな隔たりがありイライラしています。やはり、第2創業とはいえ私の思いを遂げるには自分のリスクでやるべきではと悩んでおります。

A.
 「言うは易し、されど行うは難し」。著名な識者がインターネット時代の到来は情報の双方化により産業構造が変化して、親企業と下請け企業の関係も「遠からずイコールパートナーになる」とのたまわったことをご存知でしょうか。
 あれから8年、確かにインターネットは日常生活のなかに定着していますが、識者のいう取引関係が「イコール」になるとは及びもつかない昨今です。
 それより大企業が元気を取り戻すのに合わせ、下請け企業群に有無をも言わせず身勝手な取引条件を押し付ける昔ながらの「買い叩き商売」が幅を利かせています。
 あなたは下請け稼業から「脱出」するため共同で事業を興したとのこと、その心意気には感じ入ります。ですが過去、本当に多くの企業が「新製品開発」に精を出しながら志半ばで消え去ったケースを数多見てきました。
 確かに「これは売れるぞ!」と勢い込んで開発しても、余りに「足りないもの」が多過ぎて線香花火で終わってしまうのは返す返す残念なことです。

医療機器開発の共同事業を立ち上げ

 さて、最近の話になりますが、あなたたちと同様「共同事業」に取り組みながら会社立ち上げからわずかばかりの期間で瓦解に追い込まれたケースをご紹介します。
 超精密切削で売り上げを倍増させたW社の社長S氏は自ら主宰する異業種交流会で気心の知れた仲間たちと「医療機器開発」に乗り出しました。開発の動機はS氏の息子が若手の外科医だったことがキッカケでした。
 彼は「IT医療機器」を使い込めない同僚医者が多いことを息子から聞き付け、にわかに「手術補助装置」の開発を思い付いたようです。
 S氏は「この指とまれ」で集めた賛同者を前に「日本の医学界を担う新進気鋭の外科医」と自慢の息子を紹介し一同はすっかりその気になります。
 会社設立と合わせ胸を反らせて臨んだプレス発表の席上でも「この医療機器が開発されればノーベル賞もの」とまで言い切り、居並ぶ記者からは失笑が漏れたとか。それでも翌週、紙面の半分を占めた特集記事のおかげで全国から一斉に問い合せのメールや電話が殺到。天にも昇るような思いで対応に追われる彼にとって最初で最後の「人生最良の日々」だったのです。
 W社の建屋を間借りして資本金3000万円の「器」は出来はしたものの、困ったことに出資者が持ち寄るはずの中古設備では使い物にならないことが次第にわかってきます。最新設備を買えば最低でも5億円、リースにして月額1000万円の支払いではたちまち資本金を食い尽くしてしまいます。銀行から融資を受けるにしてもW社だけの担保ではとても覚束ないこともはっきりしてきました。

当の本人が「手を引きたい」と発言

 2カ月後、「大見得を切った」S氏が債務保証するのは当然と思い込んでいた「共同経営者」たちはあぜんとする発言を耳にすることになります。何と彼は「プロジェクトから手を引きたい」と言う出すではありませんか。しかも、「貸した建物から直ちに立ち退いてほしい」とまで言う始末です。
 もはや、新会社は糸の切れた凧のように虚ろな「遊泳」をするだけでした。
 それにしてもS氏の「敵前逃亡」は相当な覚悟があってのことだろう思います。専門家の目を通したビジネスプランがあったとはいえ、5億円もの投資が必要になるとは考えも及ばなかったのです。覚悟のうえとはいえ、彼の「離脱宣言」は長年培ってきた内外への信用と多くの仲間のすべてを失ってしまいました。
 あれだけ世間に吹聴すればだれしも事業責任はS氏にあると見るかもしれません。しかし、W社の業績は上向いていても年商5億にも満たない小企業、だからこそお互いの経営資源を持ち寄ろうとしたわけです。また共同事業と銘を打った以上、ここに参画した人々も「持ち分に応じたリスク」を抱えて当然なのです。
 この手の「事業」には何の苦もなく仕掛人のシナリオに乗り、「濡れ手に粟」の輩が実に多いものです。1社で何でも抱え込む時代から「弱さを補完し合う」アライアンスの時代とはいいますが、この程度でお茶を濁しているのが現実です。
 あなたの言われる通り、自分の思いの丈を事業に反映させたいなら共同事業では駄目です。また、これを貫徹しようとするなら己を犠牲にしても初心を貫く信念と「金のわらじ」を履いてでも「損して得取る相棒」を探し求めことが先決になります。目先の損得しか見えない「船頭ばかり多かりき」では、差し詰めどこかで船が座礁し「海の藻屑」になるのが関の山でしょう。

オーパシステムエンジニアリング