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南出健一の経営放談2
『グループ再生に向けやるだけやってほしい』

(2005年1月号)

Q.
 クレーム隠蔽で存亡の危機にさらされている自動車メーカーの販売店経営者です。事件以来、20人いたセールスも1人抜け2人抜けして半数以下になってしまいました。それでも残った社員が「社長、元気を出しましょうよ」と声を掛けてくれる健気さにはついつい涙腺が緩んでしまいます。彼らのためにも社長在任中に再建への道筋を立てなければと、決意を新たにしている次第です。
 しかし、先日も商談でお伺いした運輸会社の社長に「まさか、こんなひどい車を作っているとは…」と絶句されてしまいました。
 自らまいた種とはいえ、売り上げの急落で資金繰りも時間の問題になっています。「座して死を待つ」わけにもいかず、お客様には「必ず再生させます」とメーカーの担当者共々哀願しながら死に物狂いのお詫び営業をしています。  なぜ、コツコツと技術を積み上げてきた地味で堅実な歴史的企業文化がいつの間にか自浄作用も働かない事態に陥ったのか、悔やまれてなりません。

A.
 私も20数年前、あなたと同じ系列の部品メーカーに在籍していました。それだけにメディアで事件の続報が報じられる度に「とうとう、行き着くところまで行ったか」という気持ちで一杯です。
 今にして思うとメーカーの管理や技術部門には役人顔負けの「形式主義」や「事大主義」的な雰囲気がまん延していたようです。その底流に旧財閥系の持つ「閉鎖的企業文化」が災いしているのではと「下司の勘繰り」をしているわけです。

130年続く「社訓」と不祥事の関係

 なかでも、つとに有名にしているのが「フリーメーソン」さながらのグループ基幹企業代表者による定例会です。今やほかの旧財閥系の企業グループには見受けられなくなったにもかかわらず、「鉄のカーテン」の中で何が意思決定されているのだろうかと興味津々です。それにもまして創業から130年間、「時代の風雪」に耐え受け継がれてきた「社訓」が今も脈々と息づいていることを聞き及ぶにつけ、この不祥事と何らかの因果関係がないのかと思ってしまいます。
 あなたがいう「歴史的企業文化」とは、まさしく明治維新政府の「一卵性双生児」として「富国強兵」政策を身をもって体現してきたことでしょう。良くも悪くもこの国の「産業資本主義化」を一手に引き受けてきた「歴史を背負っての自負心」が他財閥グループとは一味違ったものにしたのかもしれません。私の記憶では「国家とともに…」などといった社訓が会議室や役員室に掲げられていたし、非公式の席上でも幹部の口をついて出ることがしばしばありました。
 それにしても、この「大時代的社訓」を社員たちはどのように受け止めていたのか、1人の有能な男を通して俯瞰してみたいと思います。
 もう10年ほど前になりますか。D氏はグループの商事会社で取締役候補に挙がりながら、その選に漏れ、しょげ返っていたのを覚えています。
 彼の「ゼロ」から事業を企画し立ち上げてきた実績は商社マンとして高く評価出来るものでした。当の本人も自らの実績を辺りかまわず吹聴したうえ、臆面もなく「来期、取締役は間違いなし」とうそぶいていたのです。
 それが「落選」したのですから人一倍自尊心の強いD氏のこと、部下や取引先に合わせる顔がないどころか身の置き所もなくなってしまいました。やがて「耐えがたき屈辱」は彼の業績を認め「もう一期我慢」と諭してくれた常務に対して「私の実力からすれば取引先からは引く手数多です」と言い放つことになります。

「地球は自分たちのために回る」

 その後、D氏は念を押すかのような「天下のA商事で業績を上げてきた」ことを売り言葉に就職活動を始めます。多くの取引先では、D氏から「2年で売り上げを倍増してやる」といわれてもだれ1人「引き取り手」になろうとはしませんでした。
 後日談になりますが、彼と親密な取引関係にあった経営者の1人がぶぜんとして「あのグループ基幹企業の連中ときたら地球は自分のために回っていると思っている」と吐き捨てるように言ったことが極めて印象的でした。
 やむなく彼はアジア進出を目論む企業相手のコンサルティング会社を開きました。が、懲りない男とは救いがたいものです、相変わらず「天下の…」を振り回すやり口では商売になろうはずもありません。ですから成約寸前で駄目になること数知れず、いつの間にか「店仕舞」したことを耳にしました。
 例外的な事例かもしれませんが、「関連企業」で禄を食んだ者としていまだに続く「大いなる勘違い」に触れずにはいられなかったのです。あなたも先刻ご承知とは存じますが、形では見えない企業文化とは継承した歴史が長ければ長いほど事大主義や形式主義に陥る危険をはらんでいます。
 ましてやグループ基幹企業の「長老」たちが「冠企業群」に「睨みを利かせている」とすれば何をかいわんやです。

「一蓮托生、死なばもろとも」

 さて、歯止めの効かないクレームで販売台数は激減してその極みに達しています。その傘下の販売店や部品メーカーは親企業の支援でどうにか食いつないでいるのが現状です。
 もはやメーカーだけの責めに帰すことが出来ないところまで来ているのだから、あなたたち関連企業とて「一蓮托生、死なばもろとも」と腹を括る以外なく、残された道は限られています。だとすれば、持てるすべてを投げ出して「グループ再生」に賭けるほかはありますまい。しかし、この歴史的失敗体験が次の苦難を乗り越える大いなる術になることだけは間違いないのです。

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