オーパシステムエンジニアリング
会社情報

 

一覧に戻る

中小企業応援隊・失敗の学舎 最終回
『粗末なITに数千万円だまされた病院理事長』

(2004年5月号)

 法律に守られてきた「お医者様」の世界も随分変わってきたものです。
 先日、歯科医院のドアを開けた途端、さわやかな「いらっしゃいませ」の一言に「おや、ここはレストランなの?」と錯覚しそうになった次第です。
 長い間、医者は患者を「お客様」とは考えていなかったらしく、患者が医者のご機嫌をうかがいながら「お金」を払うという世にも不思議な関係でした。その医者が治療方法を間違えたり、診療請求を水増ししたり、揚げ句の果てに「お客」を死に追いやってしまうのです。
 そのたびごとにテレビで大写しされた責任者が深々と陳謝する姿を目の当たりにして、これが日常茶飯事に起きているとすれば空恐ろしい限りです。

由緒ある病院が「火の車」に

 東京近郊に30床を持つ病院の理事長であるA氏は、江戸時代から続く由緒ある家柄の8代目です。初代は「解体新書」で後世に名をはせた西洋医学の先駆者杉田玄白の真弟子で、当時の免許皆伝書や口伝が残っていますから相当優れた人物だったのでしょう。それゆえでしょうか、歴代の主は「医とは人助け」の哲学を持ち地域の人々に愛されてきました。
 ところが近年、A氏の病院もご多分に漏れず医療費や薬剤費を値下げされてからというもの経営は苦しくなる一方で、とても「医は仁術」とは言えない状況になってきたのです。さすが、8代目A氏の大人然と構えた風格を見る限りだれしも内情が「火の車」とは思いもしなかったでしょう。

米国から呼び戻された8代目

 A氏は日本の医大を経て米国東部にある医科大でドクターを修め、5年近くその医局で外科診療を担当していました。ところが、7代目の父親が倒れたため急きょ、実家の病院を継承し10年が経ちました。手術の腕前は米国の医局にいたころから高い評価を受け、医局のボスから帰国間際まで慰留されたといいます。本人にしてみれば、しがらみだらけの一族郎党がいる病院経営よりも自由に研究できる米国のほうがどれだけ気楽だろうとの思いは強かったようです。
 実家の病院は医局には10人、事務局には叔父の事務長以下7人の構成で病床は大よそ70%程度は埋まっていました。が、ここ4年間の収支は赤字の連続であり借入金はうなぎ登りに増え続けていたのです。
 A氏も耐えかねて、事務長である叔父に事務員7人を4人にするリストラ案を提示したところ「おれに辞めろと言うのか!」と居直られて早や6ヵ月。何人か仲間の医者に相談を持ちかけたのです。いずこも同じ「自分の頭のハエも追えない」相手から親身な返事など期待できようはずもありません。それでも仲間の1人が「医療情報システムのコンサルタントと顧問契約している友人を紹介するから」と言ってくれたのです。
 A氏はコンサルタントが理事長室に入ってきた瞬間、「この男が…」と思うような印象を受けましたが、次々に大手病院や有名医師の名前を挙げつらうのもあながちハッタリでないことだけは確認できました。ただ、照会先に実力のほどを問い合わせても「うーん…」という唸り声だけが返ってきたのです。

業務のIT化と電子カルテの導入

 とりあえず、2人の削減を目標に受け付け業務のIT(情報技術)化と電子カルテの導入を決めました。A氏はコンサルタントとシステムベンダーに仕様の詰めからすべて丸投げにしたのです。何度か医局会議に彼らを出席させて、システム設計の概要と進ちょく状況を報告させました。医師も事務長も時々顔を出しても「無言の行」。たまりかねたA氏は担当する医療特性について注文を出しました。
 6カ月後、システムの試験稼動が始まった矢先、当のコンサルタントは医師と看護師に取り巻かれ「これじゃワープロだ」「アンタは素人だ」とつるし上げられたのです。その直後、理事長室に血相を変えて飛び込んできた叔父の事務長が「お前、あれで2人も削れというのか!」とA氏を怒鳴りつけたのです。
 医者は職人の世界。それも鼻持ちならないプライドだけが高くて、わがまま放題ときては彼らの集団に医療事務のIT化はそぐわないのかもしれません。
 読者の皆さん、通い慣れた町医者にある自分のカルテをご覧になったことはありますか。ドイツ語とも英語とも、はたまた日本語ともつかないミミズが這ったような「暗号」が記されているカルテを。A氏の病院の医師たちも「ミミズ暗号」が書けなくなったことが腹立だしいということでしょう。
 ところで、米国ではITバブルを境にコンサルタントは詐欺師と紙一重だいわれています。ましてや日本のように規制で保護されてきた医療業界に巣食う「コンサルタントもどき」は詐欺師以上かもしれません。その「…もどき」に数千万円もの顧問料を払うバカな医者がいるとすれば何をか言わんやです。自らの体たらくを棚に上げて「病院経営が窮地に追い込まれた」と騒ぎ立てるとは何事ですか!。それでも気が済まないと見えて「族議員と役人」の尻をたたき「日本の医療を守る」と大上段に振りかぶるのは「医者の利権を守る」ことと同意語なのです。

まず、手前勝手なプライドを捨てよ

 いっそのこと、アナタたちの「お客様」でもある中小企業経営者にその半分の顧問料を払ってみては。日々、爪に火を灯すような改善を積み重ねている彼らから仕事の原理原則と効率的な仕事の進め方を教わったらいかがですか。間違いなく無駄飯を食っているスタッフを半減させて見せるでしょう。
 「医療機関のリストラ」とは、まず医者の「地球は俺のために回っている」という手前勝手な意識構造をたたき壊すことです。そして、競争原理があるとはいえ、医者や弁護士など、お国に保護された商売でありながら信じられないような利得を懐にできる時代をそろそろ終わりにさせることです。

オーパシステムエンジニアリング