オーパシステムエンジニアリング
会社情報

 

一覧に戻る

中小企業応援隊・失敗の学舎 第1回
『会社を潰した6代目、無能な身内は排除せよ』

(2003年6月号)

 デフレ対策の妙薬は、「会社を小さくすることだ」と本気で考えている企業経営者が増えています。市場が小さくなり仕事が減ってしまっては、事業の器を小さくすること以外「次善の策」が見当らないのでいたし方ないということでしょうか。年を追うごとに、経営者のリスクを承知で新しいビジネスに取り組もうとする意欲が萎えてきたように思えてなりません。
 片や、中小企業支援を声高にのたまう「お上」にしても、申し訳程度の積み増し予算に笑みを浮かべ、「十分な手を打った!」と悦に入っているというありさまです。
 例えば、最近打ち出された政府系金融機関の「セーフティネット貸付」ですら、一定額の融資を受けようとすれば「担保提供」が前提になっているのです。つまり、「ない者には貸さない」ということなのでしょう。
 どうにもならない現実に生きる経営者にとっては「もう結構、アンタたちの言うことを、まともに聞いていたら生き残れないよ」というのが偽らざる心境です。このままにしておくと、百年たっても「改革という名の空念仏」を唱え続け、ついには夢も希望もない惨めな国になってしまうかもしれませんな――。
 今月は情けない報告をしなければなりません。長い歴史に培われた地方の名門企業が金融機関に責められ、その場しのぎの「対症療法的リストラ」に明け暮れた末、破綻への道に突き進んでしまったのです。
 肥料問屋から化学商社に衣替えしたE社は創業百十数年の歴史を持つ年商約200億円、社員数約400人の地方では有名な老舗でした。6代目社長を継いだN氏は、物心ついたころから事業継承者として伝統的な「乳母日傘の帝王学」で育てられてきたそうです。
 しかし、N氏が社長になってからというもの、業績が上向いたことは数えるほどしかありませんでした。それでもE社の持つ莫大な含み資産にかまけていたのでしょうか、N氏をはじめ幹部連中は低迷の一途をたどる社業にあまり焦りを感じていなかったといわれています。
 ところが、E社の度重なる業績低迷に地元金融機関の見る目も様変わりになり、大幅な追加担保要求と長期借り入れ約定返済の変更を求めてきたのです。

その場しのぎのリストラ

 追い討ちをかけるように役員派遣の打診があってからというもの、さしものN氏たち経営幹部も強い拒否反応を示しました。「小田原評定」役員会の結果、ほとんど裏づけもないまま、お座なりの「リストラ案」を作成したのです。
 そのリストラ案とは「10支店を半分にする」。それに伴ない「情報システム部の要員や運用経費をそれぞれ3分の1に圧縮する」というものでした。
 5年前、E社は情報システムを約10億円かけて構築しましたが、極めて運用に手間暇のかかる欧米型ERP(統合基幹業務システム)であり、簡単に要員や経費を圧縮できる代物ではなかったのです。社員たちは「当社のシステムは日本でトップクラス」と決め込んでいましたから、まさか自分たちが最初の「人身御供(ひとみごくう)」になろうとはゆめゆめ考えてもいなかったようです。
 とはいえ、金融機関との約束を果たさないわけにもいかず、閉鎖する支店やシステム部員を対象に希望退職を募りました。わずか数日で予定を上回る社員が応募してきたのです。おまけに、ERPの運用に残すべき人材もあらかた姿を消してしまいました。
 基幹業務も会計・人事情報システムを辛うじて動かすことが精一杯の状況で、肝心の在庫や顧客情報システムは「開店休業」状態になったのです。
 もっとも、ERPを導入していたとはいえ旧態依然とした業務体制では在庫管理一つとっても年がら年中、担当者が倉庫にもぐり込み実数を確認するありさまでしたから、ほとんど使いこなしができなかったと言っていいでしょう。
 リストラ後、確かにそれなりの業績回復を見ましたが、「次の一手」とも言うべき衰退事業を切り捨てる抜本的な改革を避けていては、もはや長続きするはずもありません。E社は「坂道を転がる」ような勢いで衰退の一途をたどりました。
 それから間もなく顧問弁護士は「民事再生法申請」の手続きに入ったのです。「名家や老舗にはいざという時、その歴史的伝統の支えが強靭な生命力を発揮するものだ」と言われてきました。それゆえ、創業百十数年のE社も営々と6代に至るまでその甍を連ねてきたと言えましょう。
 しかし、皆さんお気づきの通り、N氏は6代目当主としてもオーナ経営者としてもほとんど存在価値はありませんでした。N氏は象徴社長であり「君臨すれど経営せず」という帝王学で育てられたのです。当り前のように、N氏をはじめ幹部も社員も誰一人として危機感に乏しく、N家の先祖が蓄えた資産を寄って集って食い物にした「ゴキブリ集団」だったのです。
 E社の破たんは支店を縮小したことや情報システムにまでリストラが及んだことではありません。N氏が生まれた瞬間、事業継承者として運命づけられたことが最大の破たん要因です。そして、企業全体がN家の先祖が築き上げてきた資産に安住した時からE社の綻びは始まったと言えます。

血縁とは関係なく後継者を選べ

 「血縁の継承」か「事業の社会性」かの選択を迫られたときにこそ、経営者の真価が問われるのです。経営者にとって、親子の絆があろうと自分の息子の「能力」を見抜く冷徹さと「排除」する強さを持ち合わせていなければ、再びE社の悲劇は繰り返されるでしょう。そして、企業再生を賭けて「金のわらじを履いて」でも「実力のある後継者」を探し求めるのがオーナーの責務なのです。
 かつて、大阪・船場の商家が無能な身内よりも「貧しさから叩き上げた他人の血」を注入しながら商いの継承を求めました。その英知こそ、大いに注視しなければならないと思うのです。

オーパシステムエンジニアリング