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中小企業応援隊・南出塾 第5回
『企業の信用を規模で測る愚』

(2002年11月号)

 新入社員用の賃貸アパートを探していた友人が、頭から湯気を上げて怒りまくっていました。ある大手不動産会社の窓口で契約しようとしたところ、所定の「賃貸申込書」に業種や資本金、社員数、売上高ばかりか、上場企業か否かまで記入する欄があったそうです。彼は「なぜ、ここまで書かなければいけないの?」と聞いたところ、係員からは木で鼻をくくったような返事がありました。
 「信用の程度を見るんです」。
 この一言に、友人もさすがにカッとなりました。「見かけの企業規模で何が分かると思っているんだ! 上場企業だって、いつつぶれてもおかしくない世の中なんだぞ!」。
 結局、駅前の小さな不動産業者にくら替えして契約したそうです。
 依然としてこの国には、「小さいところがばかをみる」ような仕組みや風潮が残っています。形式主義や、政官業の癒着が半ば公然と横行しているようでは、中小企業やベンチャー企業にどんな振興策が示されようと、その結果が「労多くして、効少なし」になるのは当たり前です。

学歴で開発メンバーを決める?

 さて、ここでは大企業の官僚主義・形式主義がどれほどの害を及ぼしているか、ある中小企業が破たんにまで追い込まれたケースでご紹介しましょう。
 M社は社員50人のソフトウエア開発会社でしたが、一部上場のコンピュタメーカーが担当した中央省庁向けシステムの開発案件を受注しました。M社にとっては社運を賭けての大仕事であり、20人の精鋭をよりすぐって開発プロジェクトチームを編成。メンバーの学歴や開発履歴といったスキルシートを、メーカーの公共システム部長あてに提出しました。
 ところが、チームのメンバー全員がメーカーの開発担当の面接を受けた数日後、「この程度の学歴では今回のシステムは理解できない」という理由で、半数近いメンバーの入れ替えを指示されたのです。T社長にとっては青天のへきれきでしたが、今度は背水の陣で臨み、学歴詐称までして、どうにか承認をもらえたのです。
 しかし、肝心の開発上流工程には参画させてもらえず、使い走りや単純な力仕事だけをやらされる羽目になりました。コンピュータメーカー側は揚げ句の果てに、自分たちの設計ミスによる遅れを棚に上げ、連日の深夜残業はおろか休日出勤まで強要したそうです。
 あまりのひどさにM社のリーダーが抗議をしたところ、「その言い草は何だ!」「お前は帰れ!」と怒鳴りまくられ、出入り禁止になってしまいました。
 思い余ったT社長は、公共システム部長に「そもそも、この程度の仕事でなぜ学歴をうんぬんされるのか」と問い質したそうです。彼が平然と「役所は学歴にこだわるから、一定以上の学歴を持たない人は開発メンバーとして登録できないのだ」と言うに至っては、我慢に我慢を重ねてきたT社長も、ついに堪忍袋の緒が切れました。
 なんと、全員引き揚げを決意したのです。メーカーからは契約不履行を理由に損害賠償を請求するとまで脅かされましたが、それ以上の開発は断固拒否したそうです。
 M社の開発力は他の顧客からも高い評価を受けていましたが、大企業に盾突いたツケはあまりに大きく、M社の経営にジワジワ効いてきました。その後、資金繰りの悪化から、ついに銀行取引中止という事態に追い込まれてしまったのです。

長いものには巻かれるべきか

 T社長は周囲から、「なぜ長いものに巻かれなかったのか」と非難されました。処世術に反したがゆえに、一時的とはいえ50人の社員とその家族を路頭に迷わせたのですから、経営者失格のらく印を押されても仕方がないかもしれません。
 T社長とて、清濁併せのむ度量がなかったとは思わないのですが、ドンキホーテさながらの無謀さだけでは、大企業の官僚的組織が持つ不条理さに立ち向かえません。
 中小企業経営者のよりどころは「居直り精神」です。正面から戦いを挑んでも勝ち目がないとなれば、邪道だと非難されようとも忍びがたきを忍び、相手にくらいつきながら、一筋の光明を見いだすことが経営者の責務なのです。
 とはいえ、なんとも情けないことです。かつて、浪速や江戸の大商人たちは自らの「道」を定め、それを家訓として営々と受け継いできました。例えば「商いとは人の役に立つ道理」であり、「決して、身分で商いを区別してはならない」などと書き残しています。
 300年後、先達たちが説いた「物事の道理」は色あせてしまいました。良識を売り物にしていた大企業が、一夜明けると恥も外聞もなく税金をだまし取る悪徳企業に成り下がるとは、何をか言わんやです。「道理とは何か」が分からなくなったこの国の行く末が案じられてなりません。

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