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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室 最終回
『全社コスト削減でITが最大の標的に』

(2002年6月号)

質問
 私は首都圏にある建設会社のIT(情報技術)部門の責任者です。3月号の当コラムでご指摘の通り、建設業界は経営者から現場に至るまで考え方や行動様式が昔のままです。旧態依然とした体質を変えようと努力してきたつもりですが、本質的には何も変えられないまま今日まで来てしまいました。
 公共投資の削減により、建設業界は生きるか死ぬかの瀬戸際です。当社とて例外ではなく、本社屋の売却に続き、30%の人員整理と20%の賃金カットなど大変なリストラを実施しました。それでも赤字体質は改善できず、大幅な経費削減を余儀なくされましたが、IT部門がその重点削減対象になっています。
 当社の経営トップは社外では「IT化投資は、経営状況の良しあしに関係なく進める」と公言していながら、実際には経費削減の筆頭に挙げているのです。
 おまけに人員を削減された部門からは悲鳴が上がっています。サービス残業だけでも軽減するため、IT化を進められないかという切実な要望がひっきりなしに来ています。しかし、それに対応するヒト・モノ・カネを切られてしまっては、我々も動きようがありません。
 先日も社長直属の経営管理室から、経費削減のネタにするらしく、前期のIT化投資がどの程度の効果を上げたかを数値にして報告せよという指示がありました。他部門のほうがよほど無駄な経費を垂れ流しているのに、なぜIT部門ばかりが冷遇されるのでしょうか。

回答
 あなたは、建設業界の旧態依然とした体質を嘆いていますが、公共事業にかかわる談合行為は他の産業でも同じです。
 例えば、政府の電子行政システムの入札に群がる大手IT企業は、数億円は下らないといわれる開発案件をわずか数十万円、数千円で落札しています。かつての「10円入札」と全く変わらない実態を見るにつけ、「この国にはもはや進歩という言葉は存在しないのではないか」と思わずにはいられません。
 さらに、これを当たり前のように発注してしまう役所の無能さには、開いた口がふさがりません。

ITは金食い虫か

 さて、貴社では今期のリストラだけでは赤字体質が改善されず、さらに厳しい経費削減を求められているわけですね。
 拡大路線に乗っているときの企業経営ほど、楽なものはありません。それがいったん、縮小・後退方向に逆流を始めると大変です。優秀な人材が次々に退社し、企業の再生どころか、人材流出を収拾することに大変な労力を費やしてしまう事例も数多くあるのです。
 最近は素早く人員を整理する企業ほどマーケットから評価されて株価が上がる風潮がありますが、どこかが狂っていると言わざるを得ません。
 人だけではありません。リストラ対象の筆頭にIT部門が挙げられているとのことですが、ITを経費削減の目玉にしている企業が多いことに愕然とします。
 大手企業の経営者ほど、表向きは格好良く「ITは企業にとって欠かせないツールだ」などと言いながら、社内ではせっせとIT投資を削っているありさまです。多くの経営者が「IT=金食い虫」と見ている節がうかがい知れます。日本人の得意技である建前と本音を使い分けているのは悲しむべきことです。
 私が知っている一部上場の車両メーカーでも、リストラの一環として、個人の能力に関係なく機械的に削減人員数を決め、IT部門の社員を半数近く他部門に配置転換しました。その対象になった大半の人々は会社を去っていきましたが、なかには、どこへ出しても通用する優秀な人材が何人もいたようです。

目先の利益を優先する経営者

 なぜ、こうもIT部門がリストラの対象にされるのでしょうか。業績悪化で追い詰められている経営者には、将来への展望や戦略もさることながら、目先の状況から少しでも早く抜け出したいという強い焦りがあるからなのです。
 となれば、「一銭も稼がない部署はどこか」という犯人捜しを始めるのは人情かもしれません。その俎上(そじょう)に載せられやすいのがIT部門なのです。しかも、この傾向は今に始まったことではありません。景気動向と連動するかのように、不況下では必ずといっていいほど繰り返されてきました。
 景気のいい時代に大がかりなIT投資を実施し、華々しく専門誌で取り上げられた企業がいつの間にか表舞台から姿を消す。再登場したときには「IT後進企業」のあしき事例として紹介される。こうしたケースを何度も見聞きしてきました。
 職人文化ではぐくまれた日本人には、手に取って目で確かめられるもの以外は信用しないという本能的な性分があるのかもしれません。「IT化」という概念的なものは、理解しにくいのではないでしょうか。

IT投資の不良資産を洗い出せ

 とはいうものの、あなたのようにリストラで意気消沈していては何も解決しませんし、あまりに惨めではありませんか。
 従順なだけのサラリーマンはもうやめにして、残された仲間とともに攻めに転じる体制を整えて下さい。上からの指示を待っていては駄目です。ご自身の置かれている立場を超えて、「戦う勇気」を持って下さい。
 まず、貴社の情報システムが本当に経営に貢献しているのかどうかを客観的に分析する必要があります。とかく、大規模なシステムを動かしている企業ほど、使い物にならないゴミも大量に抱え込んでいるものです。恐らく、貴社も例外ではないと思います。
 これらの洗い出しを早急に進めてください。そのなかで、あなたたちは今まで考えもしなかった「宝の山」に突き当たるはずです。部門間で幾重にもまたがる業務や、経営者が見もしないのに延々と提出し続ける無用な報告レポート――。こうした何の価値も生み出さない仕事(ゴミ)が山ほど出てくるでしょう。
 それらを洗い出したら、「サービス残業をなくしたい」という切実な要望を抱いている部門と協力して、業務改革チームを編成して下さい。社内では相当の抵抗があると思いますが、遠慮は無用です。捨てるべきものはどんどん捨ててください。半年もしないうちに、サービス残業をなくすくらいの無駄は削ぎ落とせるでしょう。
 ヒト・モノ・カネを切られても、あなたたちが無手勝流で立ち上がれば、社長以下経営幹部といえども黙ってはいられないはずです。彼らは、あなたたちが行動を起こすのを待っているのかもしれませんよ。

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