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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室
『思わぬ人材トラブルが株式公開の足かせに』

(2002年4月号)

質問
 私は5年前、映像処理のベンチャー企業を設立しました。当社の革新性や技術力についてはベンチャーキャピタルも高く評価し、2000年末に計画通りの資金を調達できました。
 当初は2003年をメドに株式公開を計画していたのですが、今では上場延期を考えています。社内体制に問題がありすぎるのです。
 私は技術畑の出身で経営管理に疎かったため、証券会社の紹介で外資系企業にいた経営企画の専門家をCOO(最高執行責任者)として招きました。ところが最近、彼の言うこととやることがちぐはぐで、とても経営管理能力が備わっているとは思えなくなったのです。
 彼が連れてきた会計コンサルタントの指導で、販売・物流・会計システムを開発したところ、3年間でなんと2回も失敗し、数億円の投資が無駄になりました。最初は高価なERP(統合業務)パッケージを導入。当社の実情に合わないということで1年半も放置した揚げ句、2度目はパッケージを使わずに手作りで構築したのです。
 しかし、このシステムもまだ稼働しません。どちらもCOOである彼とそのブレーンを除き、大半の社員は直接タッチさせてもらえないのです。COOとコンサルタントに「責任を取れ!」と迫ったのですが、二人とも責任を認めようとしません。顧問弁護士とも善後策を検討していますが、それ以外には相談する相手もおらず困り果てています。

回答
 1999年から2000年にかけては、インターネットにかかわるビジネスモデルが一世を風靡した時代でした。「ネット」という文字が踊っただけで資金が集まる摩訶不思議な現象に、誰しもおかしいと思いつつ、右往左往したものです。
 モノづくりに代表される「実業」の世界でさえ、インターネットに無関心ではいられません。一斉に「e」を頭にくくりつけ、「e-製造業」なるビジネスを展開することになりました。
 こうしてIT(情報技術)バブルはできあがり、瞬く間にはじけ散ってしまったのです。
 そのなかで、貴社の成長ぶりには目を見張るものがありましたから、順風満帆に事業を展開しているものと思っていました。飛ぶ鳥を落とす勢いの若きベンチャー経営者にも「弁慶の泣き所」があったとは、外野から見ているだけでは分からないものですね。

「専門家に任せきり」が失敗のもと

 ところで、あなたは、三顧の礼をもって迎えたCOOへの不信感から、株式上場の時期を延期したいと考えているようですね。そうした状況は、どうも貴社ばかりではないようです。
 新進気鋭の若き起業家が資金を集めた途端に、パートナーとの確執が生じて収拾のつかない内紛にまで発展するケースをよく耳にします。持ち慣れない大金が転がり込んでくると、お互いに誓い合った「高い志」など、たちどころに吹っ飛んでしまうのが人間の性(さが)と言うべきなのでしょうか。いかにも悔しいことです。
 さて、文面だけでは最高責任者としてのあなたを取り巻く状況がつかめないうえ、今回のIT投資にどの程度あなたが関与していたのかが判然としません。自ら経営管理に疎いと言うくらいですから、経営のほとんど全権をCOOに与えていたとも受け取れます。
 はっきりしていることは、貴社には経営陣の役割分担も、物ごとを決めるルールもなかったということですね。わずか3年の間に数億円もの資金を投じておきながら、販売・物流・会計システムの導入に2回までも失敗するとは聞いたことがありません。
 しかも、直接業務にかかわっている社員がシステム構築の「蚊帳の外」とは、何か別世界の話を聞いているような錯覚に襲われます。そのうえ代表者のあなたが、数億円の投資をした情報システムについてほとんど何も知らないとはあきれかえるばかりです。

統率力不足がCOOの勝手を許した

 貴社は創業5年目の若い企業ですし、業務における長年の慣習やしきたりに縛られることはないはずです。販売・物流・会計システムは、パッケージ・ソフトで十分対応できると思います。ましてや、経営企画の専門家を自負するCOOとコンサルタントが指導していたのですから、普通なら何の苦もなく立ち上げられたでしょう。
 にもかかわらず、失敗に失敗を重ねたということは、COOたちによほど能力がなかったか、別に何か意図するところがあったのではないでしょうか。嫌な仕事ですが、顧問弁護士とも十分相談してシステム開発会社への支払い状況を追跡するほか、資金の動きを直ちに調査したほうがよさそうです。
 ここで、勇気を振るって相談してきたあなたに対し、非常に酷なことを申し上げなければなりません。あなたの映像技術には卓越したものがあることは認めます。しかし、今の状況を見る限りでは、経営者としての素質も能力もないと判断せざるを得ません。
 最高責任者とは名ばかりで、COOとその一派に数億円ものIT投資を勝手にやらせたことだけで、すでに「失格」のらく印を押されるのです。
 このことを出資者が察知しているかもしれません。出資者が騒ぎ出す前に、COOとコンサルタントの解任を検討したほうがいいと思います。また、あなた単独では社内体制を再構築できないと思いますので、社員に事実関係をさらけ出し、この事態を招いた最高責任者として虚心坦懐にお詫びすべきでしょう。
 次いで、社員の皆さんとともに、現在の仕事のやり方を大所高所から客観的に分析してください。恐らく各社員や部門が勝手な解釈で仕事をしているはずです。いわゆる「部分最適」であり、考えられないほどの無駄が次々に表面化してくるでしょう。
 その1つひとつをチェックしながら、「業務のあるべき姿」を議論し、業務手順案を作成してください。そして、失敗したという2つの情報システムを、業務手順案と突き合わせながら改めて検証することです。

授業料は高いが貴重な経験

 できれば、最初に導入したERPパッケージのコンセプトを生かして、業務手順を決めたいものです。どうしても修正しなければならない点があれば、その範囲を明確にして「システム再構築計画」を練り上げてください。必ずや、全社員があなたを支えてくれるでしょう。
 高い授業料を払うことになりましたが、視点を変えれば、あなたは経営者として何ものにも代え難い「失敗という勉強」をしたのです。この貴重な経験を踏まえながら、次なる成長に向けて羽ばたかれることを心からお祈りしています。

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