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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室
『始まった電子入札、情報化は避けて通れず?』

(2002年3月号)

質問
 私は従業員10人の小さな工務店を経営しています。民間住宅と自治体向け土木工事が半々ですが、ここ数年は仕事量が減り続けています。民間住宅では地元の有力ゼネコンに対抗するために、破格の安値で受注せざるを得ません。このままでは、破たんするのは目に見えています。従業員のリストラも考えなければなりません。
 さらに追い打ちをかけるように、地元の自治体で「電子入札制度」が始まったのです。一部の工事に関してですが、「入札書はインターネットでしか受け付けなくなる」と聞いて驚きました。
 当社は現在、会計処理をパソコンで行う程度で、図面作成や見積もりは手書きで処理しています。私自身、土木・建築向けCAD(コンピュータによる設計)の研修を受けましたが、マスターできずに途中で断念しました。
 地元で仕事を受注するには、好き嫌いを言っていられないことは承知しています。しかし、現在の業績で電子入札制度への対応やCADなどの情報化投資をするのは、並みたいていのことではありません。パソコンの専門家も採用しなければならず、大変な出費になると心配しています。
 市役所に相談したところ、助成金制度の活用を勧められました。ただ、申請手続きが複雑なうえに、5年間の実績報告が必要とのこと。そこまで手間と暇をかけてやりたいとは思いません。何かいい知恵があったら教えてください。

回答
 今、土木・建設業界が淘汰(とうた)の嵐のなかにあることは十分承知しています。
 日本全国、どんな小さな市町村に行っても、市役所や村役場を取り囲むかのように「○○土建」や「△△工務店」の看板が目に飛び込んできます。「土建大国」という代名詞がそのまま当てはまる光景は、他の先進国では考えられないことです。しかも、この土木・建設業が日本の「基幹産業」の一翼を担い、数百万人にも及ぶ雇用を生み出してきたのですから驚きです。
 その土建大国が、「構造改革」の名の下に音を立てて崩れ始めました。建設業界からの失業者は増大の一途です。調査会社が日々発表する企業情報の3分の1は、土木・建設と関連業界の破たん情報だと言われます。それほど激しい淘汰が始まったのです。

電子入札は淘汰を加速

 電子入札をはじめとした行政サービスの電子化は、淘汰をさらに加速させることになるかもしれません。
 貴社の地元の自治体は2001年10月、日本で初めて公共事業入札を電子化した先進的な市役所です。同年3月、政府が「e-Japan重点計画」として発表した行政サービス電子化の先駆けなのです。
 電子入札制度の狙いは、入札価格の適正化や業務の合理化にあります。一般競争入札を基本とし、インターネットで参加できる仕組みにしたのです。これによって、より多くの建設会社が入札に参加できることになります。従来の指名入札と違って、談合の余地はありませんから、小さな会社でも努力次第で受注できる可能性が高まるでしょう。
 逆に、入札に参加するのに必要なシステムを持たない企業は、受注のチャンスそのものを失ってしまいます。
 電子入札は最終的に、行政が外部委託する事業やサービスへの入札など、工事以外の分野まで広がりますし、各種の届出・申請手続きも電子化されます。各地の自治体も一斉に電子入札システムの導入準備に入っています。こうした行政の電子化に対応できない企業は早晩、事業に大きな支障を来すことになるでしょう。

好き嫌いを言っていられない

 土木・建設業のIT(情報技術)投資は、他の産業に比べ大変遅れていると言われます。大手ゼネコンでさえ、IT活用に本腰を入れ始めたのはほんの数年前のことですから、地方の工務店に至っては推して知るべしでしょう。
 しかし、もはやITの活用について「好き嫌いを言える時代」ではなくなってきたのです。電子入札の普及は、そのことを如実に表しています。
 あなたが数年前、CADの研修会に参加しながら途中で投げ出してしまったのは、実に残念なことです。そのせいでパソコン嫌いになったようですが、まさに「熱さに懲りて、なますを吹く」ですね。
 今のままでは済まないことは、あなたも重々承知していると思います。業種・業態、規模にかかわりなく、事業を死守し、継続させたいならば、情報化は避けて通れない道なのです。
 市役所に相談したところを見ると、「何とかしなきゃいかん」という気持ちはお持ちのようです。少なくてもCADと、それに連動する見積もり・仕様書作成のパッケージ・システムは欠かせないでしょう。
 これらはおそらく、200万円程度でそろえられるはずです。その費用については、やはり助成金を申請してみてはいかがでしょうか。手間がかかることは確かですが、申請手続きの方法については役所にいるアドバイザーが懇切丁寧に教えてくれるはずです。どうしても助成金申請が嫌ならば、あなたは自分の収入を削ってでも導入する覚悟が必要でしょう。

まず経営トップが動け

 次に、せっかく投資したものを「宝の持ち腐れ」にしないために、このシステムを動かす人材が必要です。あなたは「新たな人材を採用しないと駄目だ」と思い込んでいるようですが、その人材とはあなた自身であることをお忘れなく。
 中小企業経営者はプレーイング・マネジャーです。経営者が苦労しながら未知の世界に挑戦すれば、大半の従業員はあなたに共鳴し、行動を起こすと思います。
 きっかけさえ作れば、企業規模が小さければ小さいほど、情報化のスピードは速いものです。自信をもってパソコンに再挑戦してください。なにもプログラムを組めと言うのではありません。やがて、大半の従業員は、あなた以上にパソコンを有効に活用していくことになるでしょう。
 土木・建設業界で生き残るすべは限られています。電子入札を、現状打破の突破口にしてほしいと思います。他力本願をかなぐり捨てる絶好の機会であり、これを逃すと、貴社の再生は一層困難になるでしょう。
 情報化に取り組むことで、直ちに貴社の業績が上向くことはないかもしれません。しかし、あなたの頭のなかに「新たな思考回路」が構築されることを期待したいのです。なぜならば、それが「新たな挑戦」への源泉になるからです。

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