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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室
『技術力は折り紙付きなぜ破たんの憂き目に』

(2002年2月号)

質問
 私は工作機械用の電子機器メーカーで技術担当の取締役をしています。当社は2001年に入って受注量が激減。資金繰りの悪化から、民事再生法の適用を申請しました。社員200人の半数近くを整理することになりましたが、残った技術者たちは士気が高く、短期間に再建できるのではないかと考えています。
 当社は社長以下、全員で「世界一」を目指してきました。同業他社が手を出せない高品質な製品だけに特化し、ときには過剰品質とさえ言われましたが、取引先や金融機関も当社の技術力を高く評価していたのです。
 「それなのに、なぜ破たんしたのだ」と言われれば返す言葉もありません。あまりに技術偏重で、管理面に問題が多かったことは事実です。情報システムにしても、3次元CAD(コンピュータによる設計)には積極的に投資しましたが、受発注や生産管理にはパッケージ・システムを形だけ導入しただけで、しかも、ほとんど動かせずにいました。
 こんな状態でしたから在庫数が合わず、必要な部品が慢性的に欠品していました。その一方で、部品によっては何カ月も動かない過剰在庫が山ほどありました。生産部長に生産管理システムを再構築するように助言したのですが、ほとんど改善されませんでした。
 再建のためには不良在庫の圧縮とともに管理体制の見直しが不可欠です。ぜひアドバイスをお願いします。

回答
 米国のIT(情報技術)業界に端を発した不況により、中小企業は軒並み壊滅状態に陥りました。この50年間で経験したことがない、すさまじい落ち込みに見舞われています。昨年対比30%減程度なら、ましなほうです。半導体製造装置の関連分野に至っては、70%以上の仕事がなくなってしまいました。
 貴社は民事再生法の適用が認められて再建途上とのことですが、破たんした大半の中小企業は自己破産に追い込まれて消滅しているのが現実です。それに比べれば、貴社は不幸中の幸いと言うべき状況にあります。

技術力だけでは勝ち残れない

 何とも皮肉なことですが、貴社が「世界一」を目指した技術屋集団であったことが、結果としてあだになってしまいましたね。
 10数年にわたる研究の結果、他社にまねのできない高精度の板金加工技術を開発した貴社の執念は、実に見上げたものです。債権者もその卓越した技術力を認めたからこそ、短期間で民事再生法の認定が受けられたのでしょう。
 しかし、いくら優れた技術力を持っていても、企業としての管理能力がなければ「宝の持ち腐れ」になってしまうのです。ときどき、技術と管理のどちらかに偏重している中小企業を見かけることがあります。この傾向は、強い思い入れを持った個性的な経営者に多いようです。貴社の場合も、経営者がモノ作りに執着し過ぎたことが災いして、ビジネスとしては成功できなかったといえます。

中小企業に欠けた情報管理能力

 例えば、貴社は最新式の3次元CADには積極的に投資をしておきながら、一方では足の踏み場もないほど部品在庫が山積みになっていたとか。さらに、必要な部品が慢性的に欠品していたということは、明らかに管理面の能力不足です。
 あらゆる企業が在庫を圧縮してキャッシュフローを改善することに躍起になっている時代に、不良在庫の山を抱えて改善もしなかったとは…。
 さらに、「ほとんど動かせないパッケージ・システム」とはどのような代物だったのでしょうか。基幹業務パッケージで、動かせないほど難しいものはないはずです。おそらく、誰一人として本気で動かす努力をしなかったのでしょう。システムは単なる見世物だったと言っては言い過ぎでしょうか。
 この体たらくで、あなたの言う「高品質な製品」をよくぞ作れましたね。信じ難いことです。見るに見かねて、生産部長に情報システムの再構築を助言したそうですが、管理のイロハすら定着していない所に、どんな道具を持ち込んでも「猫に小判」になっていたでしょう。
 それにつけても、取締役としての責任をあなたは自覚していたのでしょうか。以前から資金面で危機に直面していたはずなのに、他人事のように「助言をした」程度で済ませるとは許しがたいことです。社長の尻を叩いてでも、直ちに業務改革の号令を出させ、あなた自ら陣頭指揮を執るべきだったのです。
 破たんに至るまで適切な手を打たなかった貴社の経営陣は、怠慢と言わざるを得ません。その責任の一端はあなた自身にあることを肝に銘じ、再建の礎になってください。

モノと情報の流れを一体化せよ

 第1歩は、不良在庫を発生させた原因を追及し、再発を防ぐ仕組みを構築することです。まず、貴社の製品は多品種少量なので、見越し生産は無理です。確定した受注情報を基に生産を手配する「引当方式」を、早急に検討すべきでしょう。納期や数量は常に変動しますから、それを短期間で調整する機能も組み込まなければなりません。
 3カ月間は「手配〜生産〜出荷」の流れを繰り返してチェックしてください。いかに人・モノ・カネ・情報の一体性に欠けていたかが分かります。
 これが貴社再建の突破口です。「失敗の事実」が見えてくれば、しめたものです。「あるべき姿」が描けるようになります。それを実現する道具として、情報システムの価値が大きくクローズアップされてくるでしょう。
 次いで、貴社の強みはモノ作りの技術にあることは明らかです。優位性をさらに際立たせるためにも、貴社で蓄積した「匠の技」をデータベース化してください。10年間の研究・実践の成果である貴重なトライ&エラーの履歴と、そこから導き出した成形・溶接加工条件の最適値です。
 これで、「車の両輪」はできあがります。ただし、心しなければならないのは、それを誰が責任を持って管理するかということです。つまり、情報システムを有効に使いこなせる人材を作り上げなければなりません。それには、社長やあなたたちが自ら進んでキーボードの前に立ち、社員に手本を示すことです。
 卓越した匠の技と無駄を排除する管理能力はやがて、リードタイム短縮により大きなコストダウンをもたらすことになるでしょう。それは、貴社が夢見てきた「世界一」の実現に向けて歩み始めることを意味するのです。

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