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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室
『売り上げが半減IT投資は中止すべき?』

(2001年12月号)

質問
 創業15年になる光学部品の工場経営者です。水晶デバイスなどのIT(情報技術)関連部品の急速な需要拡大により、ここ3年ほどは年率30%も成長してきました。
 昨年1月、倍増する受注量をこなすために新工場を建設し、本格的な情報システムの開発を含めて、総額10億円という投資に踏み切りました。多少、先行きに不安はあったのですが、当社にとって「千載一遇の機会」という思いが強く、実力以上の投資を決めました。
 ところが、米国のITバブルが弾けてから注文のキャンセルが相次ぎ、売り上げは半減というありさまです。
 昨年末、ベンチャー・キャピタルから出資を受けたため、資金的には当分余裕はありますが、緊急役員会で今後の対策を協議しました。とりあえず、まだ搬入されていない生産設備のキャンセルを決めましたが、情報システムの開発も一時中止するという案が出ています。
 現在の業務システムは7年前に導入したパッケージソフトです。何度も手直しをしましたが、使い勝手は改善しません。結局、受発注の管理に使うだけで、手書き伝票と併用している状態です。
 私自身はもともと、情報化投資の効果には疑問を持っております。今回のシステム開発計画も、情報化の必要性を強く主張する中堅幹部から煽られて決めてしまったというのが本当のところです。できればシステム投資を中止したいのですが、いかがでしょうか。

回答
 昨年の始めから、光通信や携帯電話関連の企業は競い合うように工場の拡張や設備投資を始めました。私の知り合いの企業もことごとく大規模投資を決め、あまりの思い切りの良さに、他人事とはいえヒヤヒヤしたものです。この現象は日本だけではなく、「IT部品供給基地」であるアジアでも同じだったようです。
 すでに米国ではITバブルが弾ける兆候が見え隠れしていました。しかし、情報化の進歩によって、わずかな部品が足りなくても、その情報は瞬時に世界中を駆け巡るようになっています。メーカーは自社の部品不足を恐れ、実際の必要量以上の注文を出します。この「見せかけの需要」が実需の10倍、20倍にも化けて、部品メーカーを翻弄しました。
 気がついたときには、世界中が過剰設備・過剰在庫に追い込まれていたのです。ネットワーク時代が到来したにもかかわらず、「IT仮需」を見通せなかったとは、なんとも皮肉な話ですね。

明日の100円より今日の10円?

 さて、情報化投資を中止したいというご相談ですが、貴社の業務内容から推測すると、新たな情報システムの開発費はおそらく2000万円前後ではないでしょうか。
 貴社が10億円という投資を決めたのは、ベンチャー・キャピタルからそれと同等か、それ以上の資金を調達できたからでしょう。あなたは「千載一遇の機会」と決断しながら、状況が反転したとたん、10億円という資金調達額からみれば2%に過ぎない情報化投資をやめたいというわけですね。
 「明日の100円より今日の10円」が大切なのは分かりますが、あまりにも短絡的な考え方が気になります。部品生産とはいえ、最先端のIT産業の一翼を担ってきた経営者のあなたは、情報戦略が企業の命運を決することぐらい承知しているはずです。
 つい最近、複数の経営者から全く同じ相談を受けました。「生産設備に資金をかけ過ぎた。景気が急に悪くなってきたから、情報化投資はやめたい」というのです。話をよくよく聞けば、システムにかかわる月々のリース金額は社員1人分の給与にも満たない20万〜30万円とのことでした。
 工場には何億円もの金を使っておきながら、少し仕事量が減るとたちまちわずかな情報化投資をやめるとは、どういうことなのでしょうか。

生産設備偏重は40年前の思想

 いみじくも、その問いに対する答えを、あなた自身が書いていますね。「情報化の投資効果には以前から疑問を持っていた」と。あなたの情報化への取り組み姿勢が、如実に表れている一言です。
 おそらく、あなたの関心事のすべては「事業拡大=生産設備」というところにあったのだと思います。これでは40年前の高度経済成長時代、せっせと工場を作り、機械を並べて悦に入っていた「昔の経営者」と、なんら変わりません。
 彼らにとっては生産設備こそ金を稼ぐものであり、情報システムは金を食うだけです。ですから、景気が悪くなれば「情報化投資を最初にやめる」と言い出すのです。
 自分も企業も、変革しなければ生き残れない時代になっているにもかかわらず、多くの中小企業経営者の情報化投資に対する意識は、依然としてこの程度のものなのでしょうか。
 加えて、「システム再構築を望む幹部から煽られた」とは、オーナー経営者としてはなんとも情けない一言です。そんなことで責任逃れができるとでもお考えなのでしょうか。ここに至っては何をか言わんやです。
 幸い資金的には余裕があるようですし、2000万円をリースにすれば月額40万円前後です。貴社にとっては過大な負担にはならないはずです。しばらくはIT機器関連の市場回復は望めないかもしれませんが、中期的には再び拡大するのは間違いありません。今は、貴社の情報システムを再構築する絶好のタイミングだと考えて下さい。
 まず、貴社の情報システムを「儲ける道具」に育てるには、あなた自身の古い殻を壊さなければなりません。他人の目を気にした見せかけだけの情報化では、あなたの会社はいずれ競争力を失うことになりますよ。

むしろチャンスと考えるべき

 日本の「モノづくり」が弱体化した理由の1つは、同業他社と横並びの設備投資に明け暮れた結果、過剰な価格競争に陥っていることです。
 たとえ下請け生産であろうとも、どこにも負けないキラリと光った独自性がなければ生き残れません。決め手は、情報システムを「全体最適化」のテコにすることです。
 私達は欧米に比べ、生産設備という部分最適化に傾注するあまり、全体を見る目に欠けていると言われています。いくら「モノづくり」が優れているとしても、それは貴社にとって一部の機能でしかありません。自社の全機能がバランスされて、はじめて優位性が構築できるわけです。そのためにも「モノづくりと情報システムの組み合わせ」は不可欠です。
 状況が急変したからといって、慌てて情報化投資を中止するような愚かしいことをしてはなりません。むしろ、今こそ欧米企業に追いつき、アジアを突き放すチャンスだととらえ、情報化による企業変革を推進すべきではないでしょうか。

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