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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室
『2代目経営者が情報化に理解示さず』

(2001年9月号)

質問
 現在、関西の中堅物流会社で在庫管理の責任者をしています。トラックの運行管理と5カ所の倉庫の現品管理をするため、10年前にトラック協会が推奨するパッケージ・システムを導入しました。しかし、ネットワーク化しておらず、リアルタイムに在庫を把握できません。
 最近では取引先の商品もどんどん小ロットになり、預り件数は増える一方です。取引先からの在庫の問い合せや入出庫の頻度は1日500件は下りませんが、倉庫間の情報共有はファクシミリや電話に頼っている状態です。
 取引先からは「在庫問い合せへの回答が遅い、精度が悪い」と叱られています。上司である常務には何度も対策案を出したのですが、なしのつぶてで何の答えも帰ってきません。先日も強硬に申し入れたところ、「社長に直接言え」と居直られてしまいました。
 自分の会社の恥部をさらけ出すようで嫌なのですが、当社の社長は2代目のためか、ケチなところがあります。まだ40歳になったばかりなのに、情報システムは「金を稼がない」と考えているらしく、積極的なシステム投資はしておりません。
 私もIT(情報技術)の専門家でないため、社長を説得する知識を持たず、困り果てています。せめて、倉庫間のネットワークだけでも構築できれば、かなり状況は改善すると思っています。いい知恵があったら教えてください。

回答
 先日も、首都圏の中堅物流業者数社から、あなたと同じような相談がありました。どうやら各社とも、物流情報システムの再構築を迫られてきているようです。
 あなたの会社では5カ所の倉庫の在庫管理を、バッチで処理しているとのこと。そのうえ、日次の情報発生件数が1カ所当たり100件以上になります。ファクシミリや電話による対応だけでは、精度の高い情報を提供できるはずがありません。取引先からクレームが寄せられるのは当然です。
 今のままで何の手も打てずにいれば、早晩、淘汰の波にさらされることになるでしょう。

単なる物流業では未来はない

 現在、日本の産業全般を覆っている閉塞状況に追い討ちをかけるかのように、流通業のリストラや製造業の海外展開による空洞化が顕在化しています。当然、その余波が関連産業にも及びます。
 あなたの会社でも大きな影響を受けているはずです。取引先の荷量が減少しているにもかかわらず、多品種小ロット化によって荷扱い件数は増加するという、相矛盾したことが起こり始めているのです。
 また、各企業ともリストラの一環として物流費の削減に血眼であり、物流会社の基本原資である輸送料、保管料ともに10年前に較べて20%以上も下がったと言われています。付加価値の低い従来型の物流業では立ち行かなくなってきているのです。
 あなたが提出した業務改善提案の内容がどの程度のものなのか分かりませんが、ただ単に取引先からのクレーム対策だけでは、社長へのインパクトは小さいでしょう。緊急課題対策のほかに、将来に備えるためにも付加価値の高い新規事業案を加えるべきです。
 例えば、倉庫と取引先を結ぶネットワークを使って、取引先がリストラで手薄になっている梱包作業や簡単な組み付け作業を新規事業として取り込むことなどが考えられます。
 今や、物流会社は運送・保管業務だけに固執していては展望が開けないのです。業際の部分に深く切り込んでいく知恵を駆使しなければ生き残れません。このような提案に対しては、いくらケチな社長といえども関心を示さないわけには行かないでしょう。

新規事業の開拓が不可欠

 実際、事業を再構築するために血の滲むような努力を続けている企業もあるのです。私の知人であるF社長がその典型です。彼は、トラック50台と3つの倉庫を持つ物流会社の2代目経営者です。
 同社は創業以来30年、自動車部品メーカー数社の専属業者として、さほど努力しなくても事業は順調に拡大してきました。ところが、この10年ほどは、得意先の部品メーカーが親会社のリストラや海外展開に伴い、国内生産を縮小せざるを得なくなったのです。
 当然、F社長の置かれた状況も急転し、ついに企業の存続すら危ぶまれるところまで追い込まれました。
 中小物流会社が、親企業とともに海外に進出するわけにも行きません。途方に暮れたF社長は思案の末、トラックを半減することを決断したのです。
 さらに、3カ所ある倉庫のうち、地の利の良い1カ所を閉鎖しました。ここを店舗に改築し、今や「飛ぶ鳥を落とす勢い」の著名な衣料品会社に貸し出す作戦に出たのです。しかも、驚いたことに、その賃料は相場の半分にも満たない安さです。
 彼が示した「政策価格」は、それをきっかけに衣料品の地域物流に参入することを狙ったものでした。そのうえ、倉庫と店舗の間をリンクした物流システム・ネットワークの構築まで持ちかけたのです。この条件に、衣料品会社が飛びついてきたことは言うまでもありません。

2代目の精神構造を理解せよ

 さて、F社長は追い込まれた状況のなかから企業の再構築に挑戦し、新たなビジネスに挑戦しているのですが、貴社の社長とはだいぶ様子が違いますね。社長に具申したり忠告しなければならない立場にある常務も、部下からの業務改善提案を握りつぶしたあげく、あなたの抗議に対して「権限がない。直接、社長に言え」などと居直るに及んでは言語道断です。
 私たち中小企業では、時としてトップに忠実なだけのベテラン社員が経営幹部になってしまうケースがままあります。直属の上司だからといって、いちいちお伺いを立てていては始まりません。あなたが直接、取引先からのクレームを受けなければならない立場にいるのなら、一刻も早く社長と直談判すべき時期に来ているのです。
 あなたは、社長がケチだから情報システムの構築に興味を示さないと考えているようですが、その認識を変えてもらわなければなりません。自らリスクを背負ったオーナー経営者であれば、基本的にケチなのは当然なのです。ここが、期限付きのサラリーマン経営者と決定的に違います。ましてや2代目ともなれば、先代が残したものを守ろうとする強烈な意識が働くものです。
 ただし、その一方では「先代を追い越したい」という願望も強いのが2代目の特徴です。あなたが、この二面的精神構造を上手に利用しながら説得に当たれば、懸案のIT化投資も説得しやすくなるはずです。自信を持って社長に体当たりして下さい。

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