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失敗事例にズバリ回答・IT経営相談室
『親会社の情報化に協力を迫られたが…』

(2001年7月号)

質問
 従業員300人の自動車用電子部品メーカーの経営者です。生産管理システムは10年前に私が陣頭指揮を執って作りましたが、当時としては優れたものだったと自負しています。その後、ほとんど手を入れずに活用して来たのですが、最近、親会社が情報ネットワークを構築し直すことになり、当社もシステムの刷新を迫られました。
 親会社からは3年間で15%のコストダウンを要求されているうえ、生産量が落ち込んでいる現状では、IT(情報技術)投資はやりたくないのが本音です。しかし、同業他社はほとんど受け入れるようで、当社だけ無視するわけにもいきません。現行システムは今も有効に活用できていることですし、これを生かして極力お金をかけずに対応するよう総務部長に指示しました。
 それから3カ月が経過したのですが、いまだに具体的な計画が出てきません。生産部門の若手幹部から「一からシステムを構築し直すべきだ」という強硬な意見が出ているらしいのです。私としては不愉快極まりないことです。
 総務部長は先代からの大番頭ですが、ITには恐怖心を持っています。取りまとめだけでもやってくれればいいと思ったのですが、それも無理なようです。
 私は経営者として大所高所から見るべきことが山ほどあり、陣頭指揮は執れません。多少の出費になっても外部のコンサルタントに相談しようかとも思っておりますが、いかがでしょうか。

回答
 親会社のネットワーク構築に合わせ、自社のシステムの見直しを迫られている。しかし、現行システムでもうまく動いているのだから、大掛りな刷新をしなくてもいいのではないか、ということのようですね。
 ちょっと待ってください。本当に問題はないのでしょうか。10数年前の「自信作」を今も使いこなしているということですが、格別のトラブルがなく運用されていることと、それが本当に経営に寄与していることとは全く別の話です。
 世の中は激変しています。10年前に構築してからほとんど進化していないシステムが十分に機能し、経営に貢献している可能性は、非常に低いと言わざるを得ません。

一皮むけば問題噴出のケースも

 今年のはじめ、ある経営者とIT論議をしたときのことです。
 彼は自慢げに「当社は、親会社からのシステム関連の要求にはすべてこたえてきた。しかも、当社のシステムは在庫や生産実績数を実に正確にレポートしてくれる。そのため、期末の実地棚卸だけをやれば済むので助かる」と言うのです。一見したところIT化の成功事例に思えますが、よくよく話を聞くと、「社長が数字にうるさいから、何人もの社員が残業までして辻褄を合わせている」ということが分かったのです。さらに、5年以上もシステムの進化が止まった状態でした。こうなると、とても「経営を変革する情報システム」とは呼べません。
 表面的にはうまく運用されているようであっても、下請け企業の場合は親会社の事情に否応なく合わせなければならず、自社のあるべき姿を犠牲にしていることが多いのです。貴社の場合も結構、現場では苦労して使っているのではないでしょうか。
 総務部長の資質不足を承知しながら、プロジェクトの責任者を命じたことも、明らかな間違いです。あなたにとって「忠犬ハチ公」のような存在かもしれませんが、直ちに彼を責任者の任から解放し、あなたが直接指揮を執るべきです。
 どうしても無理ならば、思い切って、現行システムを批判している若手幹部に全権を委ねて見てください。それと併行して、中小企業向けにIT活用を支援する特定非営利団体(NPO)である「ITコーディネータ協会」に相談してみてはどうでしょうか。

親会社の押しつけに屈するな

 ただし、注意したいのは親会社の言い分を一方的に受け入れるべきではないということです。そもそも、親会社のネットワーク刷新を受け入れるメリットは、どれだけあるのでしょうか。もし、それが親会社を利するだけのものであり、あなたたちに高い買い物を押しつけて来るのだとすれば、ことは重大です。他人任せにせず、あなた自身の手で刷新の内容を客観的に把握して下さい。
 最近、情報化に対する協力依頼の名を借りた「虎の衣を借る狐」的な商売が、公然とまかり通っています。許し難いことです。私のところにも数件の相談があります。
 私の友人であるS社長は昨年、親会社が一方的に押しつけてきた「品質情報システム」に対してエキサイティングな抵抗を試み、ついに「親会社と共有する情報システムは、同社だけでなく協力会社すべてに親会社から無償で貸与する」という一筆を取りつけることに成功しました。S社長の無私の言動が、同業の多くの仲間を動かしたのです。
 S社長は自社のシステム構築でトライ・アンド・エラーを繰り返しており、その積み重ねによる知識や考え方が、親会社の無体な要求を跳ね除ける力になったのです。

従来型の「改善」は限界に

 今、自動車関連ばかりでなく、ほとんどの産業でかなり強引なリストラが進んでいます。人員整理と資材のコストダウンによるものが大半ですが、そのしわ寄せが下請企業に集中する傾向があり、社会問題化しつつあります。貴社も3年で15%の値下げを要求されているとのこと。これに応じられなければ、取引がなくなる事態に追いこまれるであろうことも十分承知しています。
 何としても自衛策を講じなければなりません。その有効な手立ての1つがIT投資なのです。
 ますます強まる親会社からの値下げ要求を吸収するには、従来型の設備投資や現場の改善だけではもはや不可能です。ITをフル活用して、「リードタイム短縮」と「間接工数(人×時間)削減」を大胆に進めるしかありません。
 ところが、ITをコスト削減の道具として使いこなせない中小企業が多過ぎます。その原因の多くは、「人」に依存し過ぎるところにあります。
 例えば、中小企業には営業を一手に引き受け、親会社の担当者とも気脈を通じたベテラン幹部をよく見かけます。問題は、その幹部が大変なノウハウの持ち主であるかのように錯覚してしまい、非効率であるにもかかわらず、彼がいる間は親会社との仕事のやり方を全く変えないといったケースが実に多いことです。
 ベテランに頼らざるを得ない業務があることは事実ですし、経験と勘を頭から否定するつもりはありません。しかし、事態がここまで追い詰められてきたのですから、今までのやり方を変革する以外、道はないことを心すべきです。

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