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シリコンバレーに学ぶ中小企業の生きる道 第1回
『現地で知る日米IT活用の違い』

(2001年1月号)

 「米国の中小企業は、IT(情報技術)をどのように活用しているのだろうか。彼らは、私たちの頭を悩ませているような問題に直面していないのだろうか」――。
 今まで米国の先進的なIT導入事例は数多く発表されてきましたが、中小企業の現場まで踏み込んだケーススタディは、あまり目にしたことがありません。
 シリコンバレーのサンタ・クララ郡だけでも年間4000社もの新しい企業が誕生し、年率14%も増えているそうです。日本から進出した企業も少なくありません。当然、これらの中小企業のなかにはITを上手に使いこなしているところもあれば、導入に失敗したケースもあると思いますが、これほど多くの中小企業が存在していながら、そういった事例が日本に紹介されないのはどうしたことでしょう。
 「彼らのITに対する考え方や活用法で、我々が見習うべき点があれば知りたい」。私が年に数回ずつ、シリコンバレーを訪れるようになったのも、そんな思いがあるからです。

IT産業を支える中小企業

 ご存知の通り、このシリコンバレーという地域はコンピュータや半導体、通信など、ハイテク産業の集積地です。近年は、バイオテクノロジーやソフトウエア産業の進出にもめざましいものがあります。まさにベンチャーのメッカといえるでしょう。それも、創業10年に満たない企業が大半だといわれています。
 しかし、シリコンバレーには、華々しい表舞台に登場しない裏方がいることも忘れてはなりません。ネット系の派手なベンチャーを下支えしているのは、ほかならぬ中小の製造業や物流業であり、この「ローテク産業」といわれている企業群が「ハイテク産業」の発展に寄与しているのです。私たちはシリコンバレーという特殊な世界の表面だけを見ていると、あたかもIT産業が単独で進化しているかのような錯覚を覚えますが、実はオールドエコノミーが周辺をしっかり固めているのです。
 例えば、半導体製造装置のきょう体を製作する板金工場や治工具・金型、試作工場などの製造業が、周辺には数多く存在しています。これらの部品を搬送・管理する倉庫業や運輸業もその発展の一翼を担っています。
 これらの企業は、ITをどう活用しているのでしょうか。詳しくは次号以降に譲るとして、ここにおもしろいデータがあります。ある調査機関が、米国の中小企業を対象にITの導入効果に対する満足度を調査したものです。
 これによると、「自社のIT化は経営に寄与している」という企業は約20%で、「不満である」「あまり寄与していない」が60%を占めているのです。ITの先進国といわれる米国でも、こと中小企業になると十分な導入効果を上げていないようです。この回答の内訳は、日本の中小企業を対象にした調査結果とさほど変わらないでしょう。

小さなバグは当たり前

 だからといって、学ぶべきことは何もないと言ってしまうのは早計です。私も何度かシリコンバレーを訪れるうちに、ようやく日米企業の間にある大きな違いが見えてきました。
 例えば、米国ではITは特別なものではないのです。文化の違いがあるのかもしれませんが「IT化、IT化!」などと大騒ぎするようなことはありません。ITが生活の中に溶け込んでいるということでしょうか。ごく当り前のこととして受け入れています。
 例えば、社員の新規採用の最低条件はパソコンやインターネットをすぐに使えることですし、中小企業であってもIT専門の担当者がいるところが少なくありません。
 彼らのスキルにかなりの差があるのも事実ですが、経営者の期待にこたえられなければ即座に解雇されてしまいます。だからこそ、担当者は必死になって成果を上げようとするわけです。
 経営者の考え方も、日本とは違うようです。あるネットワーク系デバイスを生産している日系企業のY社長に会ったときのことです。日本人の彼は「アメリカは大雑把ですからねー」と言いながら、「パッケージ・ソフトはたくさんあるが、自社に合ったものは少ない」「ソフトには非常にバグが多い」などと愚痴を並べました。
 しかし、手をこまぬいてはいません。「細かい部分にこだわっていては、先に進めない。トータルでメリットがあるなら、致命的な不具合がない限り採用するというのがこちらの経営者の考え方」と言うのです。
 シリコンバレーで生き抜くたくましき中小企業経営者の多くは、とてつもない競争原理のなかで「スピードこそ命!」であることを身に染みて知っています。明快な理念を持つ一方で、目をつむるところではつむらないと、スピードについていけません。
 確かに、思い当たる節があります。ご存知のとおり、某社のOS(基本ソフト)には大小のバグが後を絶ちません。当初は怒り心頭に達したものですが、彼らの根っこには、どうやらそんな思想があるようなのです。

目的不明の日本発IT視察団

 それにつけても、私たちはあまりに枝葉末節にこだわりすぎているのかもしれません。職人文化のなせる業(わざ)なのでしょうか。できるだけ細かく、綿密な仕上げをすることに価値があると思い込み、システム開発や情報化においても「過剰品質」になりがちです。どんどん迷路にはまり込んで、あげくの果てに大局を忘れてしまうような愚を犯していないでしょうか。
 私たちは甘い! あまりに甘すぎると言わざるを得ません。IT化を表層的にとらえたり、一種の流行のように考える経営者がなんと多いことか。
 私がシリコンバレーに滞在している間、IT関連の視察という名目で、日本の「何とか視察団」がいくつも来ていました。ところが、その多くはシリコンバレーにはほんの1〜2日滞在するだけで、すぐにリゾート地に向かってしまいます。彼らの目的が「なんでもいいから、参考になりそうなところを見学したい」などと、あまりにあいまいであるため、現地企業から「ビジネスに来たのなら大歓迎だが、物見遊山はお断り」と断られてしまうのです。
 日系企業の現地駐在員の1人は、「この手の困った団体を送りこんでくるのは日本だけ」と、なんとも寂しげにつぶやいていました。
 私がシリコンバレーを訪れるようになって、足掛け3年が経ちます。正直なところ、何回通い詰めても全体像をつかむことはできません。そのため、次号から紹介する個々の事例についても、ひとりよがりで断片的なことをお伝えすることになるかもしれません。
 ただ、この地を訪れるたびに「何かをやらなければ」という思いに駈られるのです。なんとも言いがたい魔力が潜んでいるような気がしてなりません。その思いを、シリコンバレーからの現地報告という形で、読者の方々にわずかでもいいからお話しできればと考えております。

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