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失敗に学ぶ中小企業の生きる道 最終回
『IT武器に真の自立を目指せ』

(2000年12月号)

 12回にわたり「失敗に学ぶ中小企業の生きる道」について、ご報告させていただきました。あまりに長い連載に、いささか鼻につく思いをされた読者もいらしたのではないかと反省をしている今日このごろです。
 また、「失敗ばかりでなく、成功した事例もあるはずだ」と疑問を持たれた方もいたと思います。成功事例は確かにありますが、経営を革新するところまで到達した事例は非常に少ないと言わざるを得ません。
 大企業においてさえも、情報化投資に成功したケースは稀でしょう。豊富な資金力で形だけは立派なシステムを構築しても、それを使う利用部門や経営層が十分に満足しているとは考えられません。「下司の勘繰り」ではありませんが、失敗を失敗と認めず、外部にも実態を明かしていないだけだと言っては暴論でしょうか。
 かつてバブル経済が華やかかりしころ、企業の大小を問わず「情報化社会に向けて」を旗印にまい進し、情報化では米国を凌駕したと言われました。銀行の第3次オンライン・システムや製造業のCIM(コンピュータによる製造)システムは、世界をリードするものとまで評されたのです。
 ところが、そうした評価は一変しました。専門家の方々によれば、今や「日本の情報化はアメリカと比べて5年遅れている」とか「取り返しがつかないほどの差ができた」などといった状況です。その一因は、ネットワークのインフラ整備や情報化をサポートする制度作りが遅れたことでしょう。
 しかし、私にはもう1つ別の要因のほうが大きかったように思えてなりません。それは、系列をはじめとする従来のピラミッド型の産業構造を維持するための日本的な「縛り」や「因習」です。

大企業の押しつけでは限界

 大企業は自社にとって都合の良い仕組みを下請けに押しつけ、それに従わせようとしてきました。その歴史には、「システムの全体最適」に不可欠である対等な関係は存在しません。
 ネットワークは社内や系列グループ内に限定され、情報そのものが囲い込まれました。外部とオープンな環境で双方向に情報をやり取りするという考え方は全くありませんでした。こうした閉鎖型の情報管理が、世界には通用しない張子の虎のようなシステムを生んできたわけです。
 ある自動車部品メーカーで、オンライン受注の現場を見たことがあります。自動車メーカーから受注情報を受けるために、複数の端末がずらりと置いてあるのです。
 「機密保持」という名のもとに、メーカーごとに仕様の異なるハードウエアとソフトウエアをとんでもない値段で買わされたわけです。さらに、彼らの都合で端末やソフトの仕様を変更するたびに、開発費を請求されるという手前勝手なことが行われていました。
 信じられないかもしれませんが、こうした状況は今に至っても変わっていません。メーカーは下請けの中小企業に対して、自社仕様の出荷伝票を使うように要求するため、取引先が多くなればなるほど手書き伝票が増えていくのです。私の知っている中小企業では、出荷前日に40通りもの起票を2人がかりでやっていますが、残業しなければとても終わりません。起票用のパッケージ・ソフトもありますが、対応できるのはせいぜい3分の1です。
 私には不思議でなりません。オープンなネットワーク時代ににそぐわない「遺物」を抱えたままでありながら、いわゆる大企業の方々はなぜ自らを「グローバル・スタンダード」などと声高らかにのたまえるのでしょうか。

問題の先送りはもうできない

 私たちは表面上の繕いは実に上手ですが、本質的な変革となるとなかなか手を着けず、得意の「問題先送り」をするのです。たとえ手を着けたとしても、とんでもなくタイミングを逸したものになります。日本全体がこの「蛸壺」にはまり込んで、もがき苦しんでいるのが実情ではないかと思います。
 すでに国家であれ企業であれ、目先の「改良・改善主義」で済む時代ではないのです。それでは対応できない状況に追い込まれていることを認識し、行動しなければなりません。
 ここ1〜2年で、中小企業を取り巻く環境が急速に変化してきています。大企業の合併やリストラによる事業規模の縮小などで、直接的な影響を受けているのです。いわゆるピラミッド構造にも綻びが見え始めてきました。
 一方的に大企業に依存する体質の中小企業は、苦しい経営を強いられています。しかし、この閉塞状況を打破しようという企業もあるのです。
 私がよく知っているL社はその典型です。同社は中堅の段ボール製造メーカーですが、ご存知の通り段ボールはメーカー間で商品の違いがほとんどありません。そこでT社長が経営戦略の要に据えたのが、情報化を徹底的に進めることだったのです。
 T社長が陣頭に立ち、涙ぐましいほどの地道な努力の積み重ねが始まりました。第1歩は現場の責任者を対象にしたパソコンの初級教育でした。次いで営業と間接部門、そして経営層に至るまで教育を施し、2年間で見事にマスターさせました。
 それと並行して5年計画でシステムの再構築も進めました。「すべての顧客情報を共有し、営業部門の効率をを向上を図ること」「インターネット受注から生産管理、共同輸送まで一貫したシステムを構築すること」などが柱です。取引先から要求されるのではなく、逆に取引先に対してインターネット受注システムに対応するように説得を進めているのです。
 つい最近NHKのニュースで放映された日銀短観特集で、中小企業の設備投資動向の一例としてL社が取り上げられました。T社長はそのインタビューに答えて「IT投資なくして我々中小企業は21世紀に生き残れない」と明言しました。

海外まで目を向けよう

 L社のような事例は、まだ少ないかもしれません。しかし、中小企業がITを武器に「真の自立」を目指し始めているのは間違いありません。確かに遅きに失する感はありますが、まだ間に合います。多くの中小企業が培ってきた得意技術を広く世界に認知させ、ビジネスチャンスを広げるためにも、早急なIT武装が必要です。
 それを心待ちにしているシリコンバレーやバンガロールの仲間たちが大勢いるのです。世界は決して私たちを孤独にはしません。すでにシリコンバレーにある日系ベンチャー企業の情報交流の会である「ケイザイ・ソサイエティ」から日本の中小企業情報を求めてきています。
 こうした人々との交流を積極的に進めるためにも、米国の中小企業の「生き様」をこの目で見ることが必要だと感じています。できれば来年1月号から「中小企業の生きる道・シリコンバレー編」を皆様にお送りしたいと考えています。

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