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失敗に学ぶ中小企業の生きる道 第10回
『幻に終わった共同購買システム』

(2000年10月号)

 中小企業がその限られた経営資源を持ち寄り、共同で情報化に取り組もうという試みが、これまでも何度となく行われてきました。ところが、実際に成功した事例にはいまだにお目にかかったことがありません。
 首都圏の某工業団地でも最近、ある共同化プロジェクトが失敗に終わりました。団地内の経営者有志が集まり、「購買管理システムの共同化」という戦略で合意。行政から補助金まで確保したのですが、組合の理事長と若手の実力経営者との対立によって、結局は画餅に終わったのです。
 この工業団地には自動車や建設機械部品の加工メーカーが約30社ありました。そのほとんどは従業員が20〜50人程度の下請け企業ですが、98年以降は仕事量が月を追うごとに減り続け、半年後には半減してしまった例も珍しくありません。各社は「中小企業特別融資」の枠を目一杯使って、なんとか資金繰りをしている状態でした。
 リストラをしようにも処分する資産はなく、人員整理で高齢化した職人たちがいなくなれば僅かに残った仕事にも支障をきたします。どの企業でも、経営者以下全社員が給与カットをしながら耐え忍んでいました。
 しかし、とうとう手形を落とせず、倒産する企業が出てきました。経営者たちは団地の会合で顔を合わせても、「あんたのところ、いつ会社をたたむ?」というのが挨拶代わりになっていたほどです。
 こうした事態を目の当たりにして、団地組合の理事長であるJ社のN社長は緊急会議を呼び掛けました。「座して死を待つより、打って出るべきだ」と檄を飛ばしたのです。「どうせ何もできやしない」などと戦意喪失気味の経営者が少なくありませんでしたが、若い2代目経営者たちは理事長の呼び掛けを真剣に受け止めました。

若手による共同化計画がスタート

 若手経営者たちの発案で、輸送や資材購入、受発注業務の共同化についての議論が始まりました。共同化が成功すれば当然、各社のコスト削減に結びつくはずです。
 ところが、業務が自社の手から離れることに対する抵抗が意外に根強いことがわかりました。そのうえ、「得意先を横取りされるのでは」といった姑息な考え方をする経営者も少なくありませんでした。
 そういった障害に悩まされながらも、若手経営者たちは中心議題を「資材の共同購入とそのシステム化」に絞っていきました。各社で共通する購入物品についてアンケート調査を実施して、価格や数量を把握。どうにか共同システムの全体構想をまとめ上げたのです。
 ここまでこぎ着けるのに6カ月かかりました。中でも若手経営者たちのリーダー的存在であるR社長が果たした指導的役割は見上げたものでした。彼は30社の経営者全員と膝を交えて1人ひとり説得したほか、システム開発会社との折衝まで引き受けるなど、社業を半ば犠牲にしてプロジェクトのために奔走したのです。
 開発資金については、公的機関からの補助金を獲得しようということになりました。早速、システム開発会社の助けを借りながら申請書類の作成に取り掛かったのですが、役所の窓口で重箱の隅をつつくようなチェックを受け、書き直しすることなんと4回。若手経営者たちもさすがに「2度と補助金申請などするものか」と思ったそうです。

反目する若手リーダーと理事長

 このころから、何かにつけてN理事長とR社長の不協和音が聞こえてくるようになりました。いよいよ参加各社の負担金を決める会議を開く運びになったのですが、理事長が急によそよそしい態度を取り始めたのです。そのうえ、組合積立金の拠出にまで難色を示すのです。
 当初はR社長を中心にした若手グループの果敢な行動を頼もしく思っていた理事長ですが、日本人特有の「出る杭は打つ」という習性が頭をもたげて来たのでしょうか。理事長を凌駕するほどの力量を示すR社長に対して、嫉妬心が働いたのかもしれません。つまり、プロジェクトの意義は認めつつも、それが自分ではなくR社長を中心に進んでいるのが気に入らなかったのです。
 「理事長!今ごろ何を言い出すんですか」。当然、R社長は色をなして詰め寄りました。何度も議論を重ね、「団地再生の決め手」になるはずだったプロジェクトがこの有り様です。出席した組合員たちも、両者のやり取りにただ唖然とするばかりでした。
 その直後、役所から補助金申請に関するヒアリング調査の通知をもらったR社長ですが、組合としての意思統一がないままでは出向くわけにも行きません。システム開発会社からも、「いつ開発に着手するか」と矢のような催促をされましたが、理事長との確執は深まるばかりです。
 ついにR社長の堪忍袋の緒が切れました。「理事長、私は降ります。あとは、あなたのお好きなように!」。
 幸い、ヒアリング調査だけはR社長が協力してくれたおかげで補助金交付は確定したのですが、2人の間の内輪もめは解決しないままです。そのうちにシステム開発会社は開発準備に入ってしまい、理事長はおろおろするばかりでした。
 八方ふさがりの状況の中で、理事長は遂にプロジェクトの中止を決断しました。今や手助けするものは誰もいません。関係する役所や企業を1人で駆け回りながら、「準備不足による開発時期の延期」ということにして頭を下げて回ったのです。

共同化には自己犠牲の精神が不可欠

 中小企業の大同団結とか経営資源の共有化といった「うたい文句」だけは格好良いのですが、わずか30社の工業団地ですら具体的な仕事に入ると利害得失が絡み合い、実際にはなかなかまとまりません。たいていは権力をめぐる確執が生じ、経営者同士の足の引っ張り合いが始まります。「現状を打破しなければ中小企業の明日はない」とわかっていながら、この体たらくはどういうことでしょうか。
 もし、この団地組合の共同システムが稼動していれば、内外から高く評価されたことでしょう。しかも、コスト削減といった面で、単独企業による取り組みでは考えられないような成果が期待できたはずです。
 しかし、主役であるはずの経営者の多くは「寄らば大樹」をきめ込みました。傍観者になってしまい、決して自ら積極的に行動しようとはしませんでした。目先の損得に終始した結果、「小異を棄てて大同につく」ことを放棄してしまったのです。
 中小企業の共同化を成功させるには、参加する1人ひとりの経営者が共通した時代認識と、足りないところを補完し合う大局観を持たなければなりません。加えて、ある意味での自己犠牲が求められるのです。

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