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失敗に学ぶ中小企業の生きる道 第3回
『現場無視が招いた「安物買いの銭失い」』

(2000年3月号)

 今回は、情報システム関連コストを安易に削減しようとしたために、かえってコスト増を招いてしまうという「安物買いの銭失い」の典型的な事例を紹介しましょう。
 自動車用品製造・販売のC社のことです。同社はある自動車メーカー系列で年商50億円、社員200人の中小企業でしたが、親会社からのリストラ指令を金科玉条にしたサラリーマン経営者が、情報化コストを削減するためにホスト・コンピュータをクライアント/サーバー型システムに切り替えると同時に、ERP(統合業務)パッケージの導入を決断。ところが、それがほとんど使い物にならず、結果としてとんでもない追加投資を強いられることになったのです。

安易なリストラが招いた失敗

 比較的順調に推移していたC社の業績も、昨今の自動車産業の低迷とともに厳しい状況になっていました。親会社から派遣されて1年、Y社長に焦りの色が濃くなってきました。彼が派遣された狙いは「切れるところはすべて切れ」という徹底したリストラだったからです。
 そんなY社長がある日、独断でERPパッケージの導入を決めてしまったのです。ビジネスシヨウで見た「3カ月で稼動するERP」の実演に痛く感動したためで、もちろんソフトの安さに引かれたことは否定できません。しかも、ホスト・メーカーに支払うメンテナンス費用がばかにならないという理由から既存システムに見切りを付け、クライアント/サーバー型システムに移行するというのです。
 孤立無援で乗り込んできた彼は、ただ1つの後盾は親会社だと思い込み、重要案件をC社の幹部にはあまり相談しませんでした。情報システムについても「ご本社」の情報システム部に伺いを立てる有様で、幹部一同、怒り心頭に達していました。
 実際、ERPパッケージの導入を決めた直後、C社のシステム運用担当者3人のうち、2人が退社してしまいました。しかしY社長は何の衝撃も受けませんでした。「こちらが手を汚さなくてもリストラができた」というのが本心だったかもしれません。
 ERPパッケージの代理店であるシステム・ベンダー数社から見積もりを取ったり、導入評価をするのも親会社サイドで進めていたため、実際の業務の泥臭い世界を一番わかっている人たちの意見は反映されません。やる気があるのは社長だけ、幹部の多くは面従腹背という状況のまま、C社はいよいよ情報システムのリストラに入ることになります。
 やがて、代理店のコンサルタントから教育スケジュールの日程についての連絡があり、1人残ったシステム運用者と製造・販売の実務担当者2人が延べ1週間にわたる研修に参加することになりました。今までシステムに関することは運用者に任せっきりになっていたため、実務担当者にとっては「余計な仕事が増えた」という被害者意識のほうが強く、嫌々ながらの研修になったようです。

当初予算の3〜5倍に

 プロジェクトチームはこの3人に、親会社から派遣された1人を加えた計4人に決まり、ホスト・コンピュータのデータ変換作業に入ることになりました。ところが既存システムには仕様書がないうえ、これまで取引していたシステムベンダーからの協力が得られず、データの変換だけで移行スケジュールの大半を費やしてしまいました。発注したシステム・ベンダーのセールストークにあった「3カ月で稼動する」というのも、「最適な条件が整った場合」という注釈付きであったことが明らかになるにつれ、Y社長のイライラは募るばかりでした。
 ようやく並行稼動にこぎ着けましたが、肝心な生産・販売部門で、求める処理プロセスとパッケージ・ソフトの機能が決定的に違うことが明白になりました。特に問題になったのは、従来のデータの処理方法が複雑だったため、新システム移行後のメンテナンスも煩雑で、整合性が取れなくなる恐れがあることでした。ここに至って初めて、メンバーは社長に決定的報告をしたのです。「このままでは運用できません!」。
 Y社長はやむなく、親会社のシステム部門とC社のプロジェクトメンバー、システム・ベンダーの3者による対策会議を持ちました。言うまでもなく「責任は誰にあるか」という犯人探しが始まりましたが、結論の出るはずもなく、小田原評定に明け暮れました。
 そして数週間後、システム・ベンダの再提案書を見たY社長は、気が動転してしまいました。カスタマイズ費用がパッケージ価格の3〜5倍になるというのです。おまけにメンテナンス費用も予想以上に高額でした。
 C社の幹部は今までの「お手並み拝見」という態度を一変させ、慇懃無礼に「高い買い物ですなー」とY社長を責め始めました。必要最小限の改造をすることで折り合いをつけましたが、結局、本稼動は5カ月延期を余儀なくされ、その後も悪戦苦闘が続いたのです。

柔軟性損なうリスクを意識せよ

 さて、Y社長の最大の失敗は自社の既存システムの価値を客観的に分析せずに、うわべのコストだけを見てリストラの対象にしたことです。
 たしかに、クライアント/サーバー型システムを構築できれば、ハードウェアのコストは格段に削減できるでしょう。導入したパッケージ・ソフトが十分に機能すれば、一からの手作りよりはるかに安上がりかもしれません。
 しかし、企業にはそれぞれの強さの源泉があります。中小製造業ならば、臨機応変な生産体制やそれを支える生産管理システムがそれに当たるでしょう。本来、システムの刷新は、自社の強みをさらに発展させる方向で検討するべきで、中小企業の柔軟性を削ぐような画一的なシステムが「お蔵入り」の憂き目にあうのは当然です。
 ERPパッケージやSCM(サプライチェーン・マネジメント)ソフトを導入することが企業変革の決め手であるかのような錯覚に囚われがちですが、これらは最大公約数的な機能を提供するだけで、万能薬にはなり得ません。とかくパッケージ・ソフトに業務を合わせることを当然視する傾向がありますが、それによって自社の強みを失うリスクを忘れてはいないでしょうか。
 そんな中小企業の実情を理解したうえでパッケージの導入評価ができるコンサルタントがベンダー側に少ないことも問題です。中小企業の情報化で失敗が後を絶たない一因は、間違いなくここにあるでしょう。
 こうした失敗の要因に加えて、親会社に軸足を置いたY社長の行動は、社内の人心をますます遠のかせてしまいました。前号では中小企業の経営者は陣頭指揮を執るべきだと言いましたが、それも社内を掌握したうえでなければ、「振り返ると誰もついてこなかった」という事態になりかねないのです。

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