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失敗に学ぶ中小企業の生きる道 第1回
『情報化系列に苦しむ下請け企業群』

(2000年1月号)

 「君の言う通り3000万円もかけたのに、システムのほんの一部しか動いていない。1年間、いったい何をやって来たんだ!」。
 99年9月のことです。ある中小製造業のA社長は我慢に我慢を重ねて来ましたが、ついに大声でシステム担当社員を怒鳴り上げてしまいました。あれだけ周到に準備して、「今度こそは」と意気込んで立ち上げた情報化プロジェクトがとん挫した無念さと、やり場のない怒りがこみ上げたのです。「過去2度の失敗の反省を十分に踏まえたはずだったのに」…。
 A社長の情報化への取り組みは挫折の連続でした。最初は15年前、親会社の紹介で「生産管理システム」のパッケージを導入しました。当初はほとんど使い物にならず、2〜3度手直ししましたが、受発注関連以外のシステムは動かすことはできませんでした。
 2度目は業績が良かったバブル期のこと。大手メーカーの尻馬に乗るかのように大掛りなCIM(コンピュータ・インテグレーテッド・マニュファクチュアリング)導入を経営方針の要に据え、マスコミ各紙から大いに賞賛されました。メーカーから5人のSEの派遣を受け、総勢15人による2年がかりの大プロジェクトになりました。3棟の工場と事務棟をLANで結び「夢の統合化工場」に思いを馳せたのです。
 そこにとてつもなく大きな壁が立ち塞がっていることに気が付くまでには、それほどの時間は要しませんでした。2年の月日はあっという間に過ぎてしまい、形だけのCIM工場には見るも無残なコンピュータのスクラップができ上ったのです。
 それから10年。「2度と情報化投資などやるまい」と心に決めたはずでしたが、世の中の動きはそれを許しませんでした。同業者仲間と会ったり経営セミナーに出ると、必ずといっていいほどIT(情報技術)活用のことが話題になり、その都度自社の不甲斐なさを痛感してきました。そして、ついに3度目の情報化投資に踏み切る決意をしたのです。
 過去2回の失敗の経験を生かし、キーマンとなる人材を取引先の金融機関からの紹介で採用しました。システムエンジニア(SE)経験20年という触れ込みにすっかり惚れ込み、すべてを任せることにしたわけです。A社長は「社内に優秀なSEがいなかったことが失敗の原因」という確信があったようです。しかし、冒頭のように3度目の挑戦もやはり失敗に終わりました。

何が「失敗のお化け」を生むのか

 A社長だけではありません。中小企業の情報化に対する取り組みは「失敗の歴史」でした。4半世紀も前から、動かない情報システムとその責任の所在を巡るやり取りが、経営者と従業員、そしてシステムベンダーの間で続いています。情報化が企業の命運を制する時代だというのに、依然としてこのような状況が続いていることに、ある種の苛立ちを感じているのは私1人だけではないと思います。
 私は製造業の生産情報システムの開発・コンサルティング会社を経営して13年。顧客数は約200社になっています。ほとんどが中小製造業です。格好のいい仕事ばかりをやってきたわけではなく、むしろ泥臭いやり方でコツコツ積み重ねてきました。数多くの混乱や失敗も体験しています。
 そこから学んだ、中小企業が情報化に失敗する主要因を挙げてみます。これらが複雑に絡み合って新たな障害を生み出し、「失敗のお化け」が至るところに出現するのです。
 まずは、ユーザー企業側の要因。右の図のように、経営者がリーダーシップを発揮せずに社員やシステムベンダー任せにしたり、パッケージ・ソフトの機能と自社業務のギャップを埋められなかったりと、様々な落とし穴が待ち受けています。
 さらに中小企業特有の問題も存在します。大企業傘下の下請け企業群は縦系列の世界で生きて来た結果、囲い込まれた情報化の枠にとらわれてしまっているのです。容易に系列以外の取引を展開できない環境にあるうえに、ピラミット型産業構造が崩れているにもかかわらず、従来の系列を前提としたシステムを維持させられていることに危機感を抱かざるを得ません。このままでは「中小企業の自立」など絵に描いた餅になります。
 一方、ベンダー側の要因は以下の通りです。
  1. 業務知識に欠け、要求定義の理解が不十分。
  2. 提案能力に乏しく、顧客企業の言いなりの設計にする。
  3. 値切られた工数は業務調査・分析作業で手を抜く。
  4. SEの独り善がりで概要・基本設計してしまう。
  5. 納期に追われ、単体・全体テストが不完全。
 「恥の文化」に生きる私たちはこれまで、失敗の真の原因を明らかにせず、逆にそれを隠したり、あいまいなままで良しとしてきましたが、そうした意識構造も同じ失態を続ける遠因になっているのではないでしょうか。
 いまや、中小企業にとっても情報化への取り組みは避けて通れない課題です。同じ過ちを繰り返すほど時間の余裕はなくなりました。過去の失敗を糧にして、次なる展開に入る段階に来ていることを認識すべきでしょう。
 シリコンバレーの中小企業経営者を見て下さい。彼らは当り前にインターネットを使ってビジネスをしています。それも受発注データなどをWWWで取引企業とやり取りし、社内システムにリンクさせる世界にいるのです。
 私の友人に73歳の米国人経営者がいますが、5人の社員と共にコンピュータを駆使しています。彼にとって情報システムが業務の一部になっているのに対し、私たち日本の経営者の何人がコンピュータを扱えるでしょうか。

中小でも広がる情報化格差

 中小企業経営者にとって、やらなければならないことが山積みであることは重々承知しています。来月の受注や月末の資金繰りに追われる状況もわかりますが、その一方で情報化の進展度合が企業の優劣に大きく影響することも間違いないのです。「情報武装の2極分化」と、それに伴う「寡占化」が至るところで始まり、中小企業間でもその格差は歴然としてきました。
 そこで次回以降は、中小企業が繰り返してきた失敗の歴史のなかから典型的な実例を取り上げ、「失敗のお化け」を回避するにはどうすれば良いのかを検証していきたいと思います。

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